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涼子あるいは……

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だけど、わかってくれますか。私があなたのことを校長先生から聞いたときの期待感を分かってくれますか。あなたの卒論と修論を校長先生から借りて読んだとき、私は圧倒的な解放感に酔い、歓喜の声を挙げました。こんなことを考える人がいるのか。私のことを知っているんじゃなかろうか。おとぎ話が運命とはなれて別個にいよいよ実現しそうになったときの胸のときめきをわかってくれますか。
シンデレラ役が私にまわってきました。私は短い間だったけれどシンデレラだったの。たった四ヵ月だったけれど1DKのお城で王子様と暮らしたの。
金吾さん、あなたが、もしかしてもしかして、私を救ってくれるかも、と思ったものでした。一切白状してないくせにそんな期待をあなたに持つなんて図々しいにも程があるぐらいわかってます。しかし、私はしがみついた。ほかはないとわかっていた。あとはないとわかっていた。
あなたは滔々と反共同幻想論を私の前で論じていればそれでよかったの。私は、聞きほれたわ。解放されたわ。
あなたは真剣にしゃべり、わたしの言うことを丹念に聞いて、自分のことのように反応してくれましたね。わたしのこととあなたのことの区別や差別をまったくしませんでした。知的誠実さの化身のような人でした。何の障壁も構えない、いつもそよ風が精神を駆け抜けていくような人でした。わたしのような何重にも鎧をまとった人間が、たちまちみんな脱ぎ捨てて擦り寄りたくなる人でした。擦り寄ったわたしを細部にわたって入念に愛してくれましたね。
私の目に狂いはなかった。なんて素敵な男でしょう!
生まれて初めて、あなただけが私を解放してくれた。二重生活を忘れて、普通の恋する女の子になれた。恋しいあなたは大恩人でもあります。
あなたと結婚して、あなたとともに老いていくことを、何度夢見たことか。世界中で一番好きな人とそうするのがなぜ悪いのだと居直りもしたものです。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦