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涼子あるいは……

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私の悪さにはきりがない、なにせ、私はおなかの子を産みたいと強く願っていますから。産んで溺愛したいと願い念じます。が、私にそう願わすのは、私の中に住みついているあの狂気の意志であることがわかっているので、私は私の願いをかなえてはいけないのです。もしかしてこの子から新しい何かが始まるかもしれないとも思いますが、決してそれは期待してはならないことだと思います。妄想にのせられてはならないのです。狂気の再生産になりかねないからです。
でもねえ、金吾さん、新しい何かが始まるかも、という思いを私はどうしても捨てきれないの。
思わせているのはあの狂気なのでしょう。狂気が繁殖をねらっているのでしょう。しかし、そう思わせているのは、もしかしてそれからこっそり脱走した私かもしれない。けれど そんな私なんて、あの狂気の仕掛けた罠でしょうが! わかんないよ! 
金吾さん、私は、気が狂いそうです。いや、もう、とっくの昔に狂っているのでしたよね。
この絶対矛盾の解決は、私以外の誰かがしてくれるはずです。おそらくは私を殺害するという形で。しかたがない。本当にしかたがない。殺されてやってもいいわ。
最後に、私にとってのあなたの意味、役割を、私なりにお伝えします。
私たちがはじめて遇ったときのことを憶えていますか? あなたは剣道具を肩から下げて、五小の正面玄関に入ってきて、大きめのスリッパを探していましたね。私が特大のスリッパを差し出しましたよね。あれは新品でした。学校の備品ではありません。誰も履いたことのないもので、わたしが自分の靴を入れているところに前から用意しておいたものです。シンデレラ物語と、靴をはく役が女性でなくて男性だという点で、小さな靴でなく大きな履物という点で逆になってます。私があの激烈な意志から逃れられた、めったにないぼんやりしていた時間に思いついたおとぎ話です。
お笑いですよね。悪の権化のような女が、こんなにも、幼稚だなんて。未発達な童女だなんて。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦