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涼子あるいは……

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それから一週間ばかり経った日の午後、私が裏山を通って、小学校から帰る途中のことでした。私は、帰り道を頻繁に変えて楽しんでいました。梅雨時で、その日も雨でした。長靴が滑ります。しかし、湿地に生えている菖蒲やがまは、姿美しく、見とれました。山道には赤いヤナギランにまざって、太くて背の高いししウドがそびえています。さて、何本かのししウドの茎のそばに、ウドより太い植物がにょっきり生えていたので、私は折って持っていこうと近寄りました。そしてその実態を見て悲鳴を上げました。それは、尾長ザルの尻尾でした。なつかないサルを義父が殺して埋めたのでした。遠い国から無理やりつれてこられて殺されたサルのために、その晩私は泣きました。義父の心の闇を呪いました。
ある日、私は、釣りに連れて行ってくれ、と義父に頼みました。夏休み中の、日曜日のことでした。彼は、隠微な期待に顔を醜くゆがめながら快諾しました。
昼前に社宅を出て、諏訪大社の横を過ぎ、砥川の上流に行きました。弁当を食べてから、車の中でセックスをしました。朝から義父が飲み続けているウイスキーが臭いました。私は普段の何倍も興奮しました。臭いのせいではありません。
三時ごろに下諏訪の市街地まで降りて来ました。湖岸通りを南下し、高島町の交差点で右折して、ヨットハーバーに向かいました。岸壁で釣りをしようと私が提案したからです。川ではまったく釣れなかったので、義父は気分を変えて鯉を釣るつもりになっていました。
日曜日は、午前中から、ヨットの搬入が続くので、門衛詰所の横の車止めは取り除かれたままです。ヨットを乗せていない車でも、食料の運搬等の理由で出入りできます。これらのことは前もって調べておきました。
車はゆっくりと進みました。右側はヨットが並ぶ岸壁で、左側は、グラウンドになっています。道幅はバスがすれ違えるほどの広さでまっすぐに続いています。三十メートルほど先で尽きていて、正面に諏訪湖の湖面が光っています。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦