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涼子あるいは……

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私は義父をどう思っていたでしょうか。まず、愛欲の対象である男とみなしていました。愛しているかもしれないとさえも思いました。愛欲と愛と、まだ区別がついていませんでしたから。一方では、私を地獄の亡者にし、畸形小学生につくりあげた悪魔として、憎悪の対象でもありました。憎んでいながらセックスをねだるという変態生活がいつまでも続くはずはありますまい。こんな悪因縁は、一刻も早く消滅させるべきだと思っていました。
彼は私を溺愛しました。お前をこうする手段としてお前の母親と結婚したのだ、とさえ言いました。お前を死ぬまで離さない、お前は俺から逃げられない、逃げたら、世界の果てまで追っていく、などと陳腐なせりふを口走ります。電子やデジタル分野での技師としての能力はどれほどだったのか知りませんが、彼のこんなふうなメンタリティーの低さにくりかえしうんざりしました。しかし確かに、そういうたわごとには、決して逃げられそうにないと思い込ませる迫力がこもっていました。愚昧だけがもつ圧倒的迫力でした。愚昧と愛欲が結合した、なりふりかまわない迫力でした。彼の狂気が私の心に移り住む前に、彼をなんとかせねばならないと思いました。
彼の一面を象徴するこんなエピソードがあります。
義父は、あるとき、海外出張の土産として尾長ザルを買ってきたことがありました。現地ではなついていたそうですが、検疫に一ヶ月もかかったせいか、家に連れてきたときには、義父のことをすっかり忘れていて、ちっともなつきませんでした。義父は何度もかんしゃくを起こしました。しばらくしてサルは逃げてしまいました。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦