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涼子あるいは……

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政治の季節が過ぎて俺が身を任せたのは性の世界だ。三葉虫の時代から今まで、連綿と続く直接性の世界だ。言語を介さなくても交わりが成立する唯一の世界だ。俺はお前たちが奮闘したり演技したりする地上の世界にはいない。暗く生暖かくねばねばした際限のない単調な繰り返しの世界に暮している。安心できる場所はここしかない。健全な家庭を作ってお前のように世の中にからめとられたくはない。俺は生存のために働いてはいるが、世のためになることはまったくやっていない。俺の作る携帯と同等かそれ以上の性能を持つ製品が、何分の一の価格で日本の市場に出回るだろう。俺のやっていることに意味も意義もない。俺は国内でも国外でもただただ女の尻を追っているだけだ。性的欲望だけが俺の頼りだ、俺の生存の根拠だ。後は何もいらない。俺はこのまま朽ちていくつもりだ。
山でのことと性のことは、初めて他人に語った。お前だけにしよう。お前はやはり俺の親友だ。お前と俺はやっぱり遥か深いところで共通の地盤に立っている。俺の遺書はお前に預ける。
敬具
       
金吾さん、この手紙は、義父を語っていますが、同時に私を語ってもいるのです。山でのことと性のことは、私の問題でもあります。ああ、それからね、手紙に出てくるO君って、あなたのお父さんじゃない?
義父は実父の命をもらったかのように、半年間ほど精神を異様に高揚させ、母を猛烈に口説いて自分のものにしてしまいました。
母が死ぬ三ヶ月前に義父と私の性交渉が始まりました。
母はそのことに気づいていました。私が、義父と一緒に見舞いに行ったとき、私に向かって悲しそうに微笑みながら、「ご感想は?」と言ったのです。義父は卑怯にもすぐさま病室を出て行きました。私が幼稚園生の頃は、女相撲の横綱みたいだった母も、すっかりやつれて皺だらけです。眼の下に網の目状の皺が走っていて、そこを、ゆるゆると涙が伝っていきました。母が死んだ直後、医師や看護婦たちに背中や肩をつつかれながらベッドのそばに立たされたときも、開きっぱなしの眼からゆるゆると涙が流れていました。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦