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涼子あるいは……

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私は、涼子を殺害することによって、情欲の地獄から抜け出せるだろうと思っていた。そうすることで今までの整合性を回復し、維持していけるだろうと思っていた。ところが、そうではなかった。情欲は、おさまるべきところ、私の下部、私の根幹に着床した。そして、過去の構造は再編成され、情欲を基底にする新しい整合性が一挙に出現したのだ。猿回しに操られていた猿が、師匠なき後、自作自演ができるようになった。昨日、貝島姫子の協力の下に確かめたぞ。師匠の抱えていた矛盾を払拭して、私は純粋な踊りを踊れるようになったのだ。この新たな整合性の成立のために、過渡的な涼子は死なねばならなかったんだ。殺害の後に分かった殺害の本当の理由だ。殺害は純化のための儀式だった。涼子は、純化して、私の身体の中に、今も、生きている……」
最後の言葉は、うっとりと夢見心地であるかのように発せられた。十歳の少年の身体から、官能のオーラが漂い出た。
「きのうの午後、ファイルはもどっていなかったが?」
何とかして話題を変えたかった。落ち着きはらって言ったつもりだった。しかし、声の震えはいかんともしがたかった。
「さらに誤算が生じたのだ。翌日の昼までは事件が発覚しないと踏んでいた。ところが木曜の午後十時過ぎに、はやくもばれた。後から知ったことだが。
われわれは翌日の朝七時に学校に着くようにして家を出た。二人とも、親と顔を合わさずに家を出たので、何も知らなかった。実は、満足感に酔いしれて眠りこけていたのだ。しかし、学校周辺が騒然としていて、近所の人たちが外に出て、噂話の輪があちこちにできていた。携帯のニュースで経緯を知った。しまったと思い、山岸のマンションに行くと、案の定、野次馬だらけだ。パトカーが、見えるだけで四台、テレビ中継車が五台来ていた。山岸の部屋の玄関から階段を経由してマンションの出入り口まで、青いビニールシートのトンネルでつながっていた。このトンネルを通って、ビニールに包まれた山岸の遺体が、しずしずと担架で運ばれたのかと思うと、ああ、その感動のシーンを見たかったものだと思ったよ。走り出て、遺体の肩甲骨あたりを、力強く支えてみたかったよ!
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦