涼子あるいは……
「質問はないか」
「友彦は、人間の感情を持っていないのだね?」
愚かしい質問をしているとは思った。わざと友彦に馬鹿にされたいかのような、心の屈折ぶりだった。狂気が突っ走るのを眼のあたりにして、金吾の落ち込んでいく憔悴には底がない。
「そんな屈辱的なものは、私のどこを探しても見当たらないね。不具合、不整合があってはじめて感情が発生するんだ。私の頭の中に、不整合はない。そもそも君がそんなことを言う資格があるのか? 君が感情を軽蔑していることはお見通しだよ」
「今の私は感情を軽蔑など出来はしない。私の悲しみがどれほどのものか、まだ理解していないのか? 悲しみという感情に蹂躙されるがままなのに」
「だから、涼子の死という、君にとっての大不整合があったればこそ、悲しみという感情が生まれたんだ。私にとって彼女の死は当然であり整合的だから何の感情も湧かない。邪魔者を処理して何が悪い! 私はそもそもこの世に大不整合児として生まれた。喜怒哀楽の解体した地点が私の出発点だった。以来意識的整合的に生を構築してきた。感情の紛れ込む隙はなかったのだ。私は、感情を理解はする。大人たちの愚かしさのすばらしい証拠だ。しかし、持ちたくないし、原理的に持てないのだ」
小さな怪物は言い放った。感情に翻弄されている自分は劣等人間であると宣言されたみたいだった。何たる屈辱! 金吾は、事件の前までの自分の精神スタイルをすっかり忘れて屈辱にまみれた。
「私が涼子を殺害した必然性について、殺害の最大の理由についてお教えしよう。



