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涼子あるいは……

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われわれは祭りの雑踏のなかを突っ切った。ママちゃりの後ろに私がまたがり、太郎が押していった。雑踏がすこしでも切れると、太郎がこいだ。私は身体矮小だから、二人乗りをしていても警官に咎められることはない。途中で君の姿を見かけた。こちらに向かってくる。人だかりを掻き分け、カブトムシ売りのすぐ前にしゃがみこんで、君をやり過ごした。
鍵束にはプライベイトなもの以外に、正門と正門脇のくぐり戸の鍵、校舎正面玄関、昇降口、東裏口、職員室、そして保健室の鍵が名称のタグつきで束ねてあった。正門から入った。無人の校庭がライトで照らされていた。職員室に明かりはついていなかった。警備員が巡回のために南門から入ってくるので、太郎を体育館脇に見張りに立たせ、私は昇降口から保健室に入った。
ガラスケースは保健室2のタグがついた小型の鍵であけられた。懐中電灯で背表紙を照らし、目当てのタイトル名がついたファイルを引き抜いた。机の下にもぐりこんだ。この机の下は、何度ももぐりこんだ思い出の場所だ。私は涼子の脛や別のところをさすりながら、アンドレ・ヴェイユを読んだものだった。シモーヌ・ヴェイユの兄貴だ。
ファイルの中身を見てみると、半透明の用紙にボールペンで結果が書いてある。裏表紙近くには未使用の用紙が十枚ほど綴じてあったので、これを利用して太郎の記録が載っているページを抜き取り、その上に重ねてなぞればよい。RH(―)の部分だけ除いて。さまざまな修正用具を用意してきたが不要だった。
しかし、用紙一枚を折って二ページとしてあり、もし拡げて一枚にすると、二十人ほどの記録となる。歯科、眼科の記録も含めて書き写していくのはかなり時間がかかりそうだった。その場で作業するのはあきらめた。事前調査をしたわけではなかったのでk、こういうこともありうると思っていた。ガラスケースに鍵をかけ、保健室にも鍵をかけてから太郎を呼びに行った。計画変更に太郎は不安がったが、翌朝早く登校して元に戻せばよいと諭した。翌日が登校日だからこそ木曜日に決行したのだ。
この時点で九時半だった。祭りの稽古が終わるのは十時だ。そこから稽古場に戻っても何とか言い訳は立つ」
そこで友彦は話を中断した。彼は雷鳴に耳を澄ますかのように、こんどは君の番だとでも言う様に、首を斜めに傾がせた。
十歳の殺人犯は悪魔のように冷静だった。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦