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涼子あるいは……

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つぎに、われわれのこれまでの行状を示す証拠を消さねばならない。大急ぎで、記録が残っている可能性がある場所を調べた。私はあまり動作が機敏ではない。太郎に指示して捜索をさせた。太郎は汗みずくで動き回った。
デスクトップパソコンは空だった。ノート型には雑多なデータが入っていて、いちいち見る暇はなかった。ガードがかかっているものもあり、消していく暇ももちろんなかった。盗んでおいてあとで見ようと判断してザックに入れた。机の中、本棚、押入れ等、きわめてきれいに整理されていて、われわれの手がかりになるものどころか、彼女の手がかりになるものさえ見出せなかった。われわれは、彼女自らが何らかの予感に促されて記録を消したと考え、さらに、別系統の記録捜索者が、事前に意味ある記録を持ち出したのかもしれないという妄想に駆られた。このときの感触は今もなまなましい。万一そのような者がいたなら、その行動はこちらにとって有利なものとなるだろう。われわれの前面に現れ、捜査の対象となり、われわれを隠してくれる。誰であるかは、君には見当がついているのではないか?
最上段の机の引き出しの奥に、合鍵がまとめておいてあった。これは好都合だった。それらを涼子のバッグに入れた。鍵束の紛失を悟られないためだ。
太郎は涙を流し、わなわな震えながらもてきぱきと動いた。私は太郎を叱咤し続けた。私もできるかぎり動き回った。この時点で殺害後十分を過ぎていなかった。壁時計を見ると八時五十四分だった。 
指紋だろうが、足紋だろうが、皮膚細片だろうが、毛髪だろうが、なにを現場に残そうと平気だった。しょっちゅう遊びに来ていた多くの生徒たちの痕跡にまぎれてしまうからだ。
ドアに鍵をかけて逃亡した。目指すは五小の保健室だ。部屋を出るときに、背後からかすかに甘い糞尿のにおいが漂ってきた。今にして思えば、居間からは、ゆるゆると始まった脱糞排尿の匂い、台所からは、焼けてきたケーキの香りが漂ってきて、玄関のところで入り混じったのだろう。
口をはさむな! 黙れ! よおおし、いい子だ。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦