小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

涼子あるいは……

INDEX|173ページ/217ページ|

次のページ前のページ
 

待てよ。右も左もフェイントだったのではないか。視線が通過する際にその真ん中を見ていたのではないか。真ん中、パソコンの上辺に接するように何かがあった。
「なにをしているのか」
友彦が怒鳴った。
「今あけるから待っていなさい」
PCMCIAのカードは入っているはずだ。インターネットの検索先を、福生*銀座通り*喫茶店*穂高と入れる。エンターを二回押すとすぐに件数一で出た。
ホームページを開く。随分古いものだ。更新していない。作りっぱなしで何の手入れもしていない。近辺の地図、店の内外のスナップ写真、メニューを貼り付けただけだ。
店内を撮った写真に注目した。テーブルを拡大する。なにかがのっている。それをさらに拡大する。……灰皿だ。拡大しすぎて縁がぎざぎざだ。円の真ん中に模様が見える。四角くて下半分がこげ茶色をしている。拡大はもうそれ以上効かなかった。金吾は途方にくれた。画像を見続ける。灰皿なのに吸殻が入っていない。それはそうだろう。ホームページに載せる写真だから。灰皿は、きれいに洗って拭いてテーブルの中央に置いただろう。そして…… マッチを置くだろう! 模様ではなくマッチだ。マッチに載っている情報記号は電話番号しかない。電話番号は第一面に出ていた。
その場面とCDのセキュリティナンバー打ち込み場面を並べておいて七桁の市内局番を入れた。だめ。頭に市外局番042をつけてから打つ。だめ。国番号082をつけてから打つ。だめ。どうしよう。進退きわまった。
「はやくしろ」
あせりにあせった。もう一度古い図柄のホームページを見た。古いということから何が出てくるか。昔と今とでどこか変わったところはないか。電話番号そのものが変わっていれば仕様がないが。…ああ、そうか。
最後の望みをかけて0120の次に市内局番を打ち込んだ。だめ。
電話番号ではなかったのだ。万事休す。
目をつぶって涼子の姿を思い描く。ああ、わからない。……何か見落としている。いや、見落としではなく、……聞き落としだ。
涼子はパソコンを打ちながらかすかに鼻歌を歌っていた。平井川の土手で歌った歌。どうだったっけ。小鳥のように、いつも自由に、だ。打つ。だめ。可愛いウォルタンス? だめ。駆けろよ駆けろ? だめ。小鹿のようなその脚? だめ。ああ、デュランス河! 
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦