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涼子あるいは……

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問題のメールが届いたのは午後の四時だった。学校からは一時に帰って来た。前日の寝不足で頭が痛かった。風邪の症状が進行していた。体力に自信がなくなりかけていた。缶ビールを一缶飲んだだけなのに猛烈に眠くなって寝こんでしまった。起きたのは三時半だった。シャワーを浴びていると、サティのグノシエンヌが聞こえた。メール用の着メロだ。一瞬、涼子からか、と思ってしまった。いそいで浴室から出た。

拝啓、岡田金吾殿、
私が誰であるか、君はとても知りたいであろう。君の、客観的状況を理解したいという小児的なまでの欲求はほほえましい。
よろしい。正体を明かそうではないか。状況を皆説明しよう。質問にも答えよう。
なぜ私がそうするか。
君が犯人を知りたがるのは、興奮、義憤、あだ討ち感情に駆られてなどではなく、憎悪のあまりでもなく、君個人の心理的な納得を求めているだけだと当方が判断したからだ。君の納得を早く満たしてやるほうが、むしろ当方には有利であるだろうと判断したからだ。
君は警察には何も言わない。誰にも何も言わない。事実が公になった場合、まことに多くの人々が混乱し悲嘆の涙にくれるだろう。それを察する賢明さを君は持っている。君は沈黙を守るはずだ。
ひとつだけ条件がある
山岸涼子は生前君に何らかの文書、おそらくはCDかDVDを渡しているはずだ。それを持ってきていただきたい。その内容は、山岸女史が君にどう説明したにせよ、当方に関する事柄であり、残念ながら、君には無関係だ。
面会日は本日、時刻は午後八時、場所は以下の地図で示す。
門を抜け、砂利道をたどれ。建物の正面に着いたら、右手の階段を上がれ。ドアを開け、中に入り、ドアを閉めろ。まっすぐ正面に進め。長テーブルがあるから、ドア側の椅子に坐って待機せよ。
この件に関して君が他言しないことを私は信じている。一人だけで来ることを私は信じている。
敬具
       山岸涼子殺害犯

金吾はこの文言を何度も読んだ。
これからなにがわかるか。書き手は何者なのか。どこかに手がかりがあるはずだ。犯人は、沈着冷静な、余裕も教養もある、かなり年配の人物であるらしい。はっきりしているのは、こちらをよく観察している人間だということだ。すぐそばにいる人間だ。
誰だ、誰だ。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦