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涼子あるいは……

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隣りの羽村駅で電車を降り、タクシーをとばして、指定の場所のそばにやってきた。羽村と福生のちょうど境界となる地点だ。正確には羽村市神明台の二丁目だ。 
七時四十五分。産業道路の右側の歩道を福生に向かって歩く。時折大型トラックが傍らを走り過ぎていく。この道路はここから一キロ南の地点で十六号線に合流する。そこは工場地帯の主要な出入り口のひとつだ。
交差点のこちら側に交通警官が立っていた。トランシーバーで何か話をしている。二十メートルほどの距離があった。金吾は歩調を緩めた。警官がトランシーバーを切って腰にさした。時計を見た。交差点を横切って道路の反対側にあるヴァリューに入っていった。
そこを過ぎると灯りは街灯だけになり、やがて周囲は金吾が足を踏み入れたことのない工場街になった。土曜の午後七時すぎの工場街はゴーストタウンだ。
前方、道を隔てて、ガスタンクが大きな身を闇に潜めていた。その隣には六基のプロバンガス専用タンクが、まさに家庭用タンクを縦横二十倍に拡大した規模で突っ立っていた。道のこちら側は波型プラスチック板を壁にした三階建てほどの工場が続く。どの工場も窓は屋根の近くにわずかに灯り採りとして開いているに過ぎない。昼でもさぞや暗い室内だろう。
どこを右に入るのか、何度も確認したのにいざ現地に来てみるとわからない。携帯をとり出して地図を映し出す。地図には、入り口と目的地に×印がついている。道の向かいに交運社整備工場。竹中電子の手前を右折。
小型トラックがやっとすれ違える程度の道に入った。電柱の街灯はさらに暗く、道の奥は暗闇だ。十メートルほどで竹中電子の通用門があった。左側にはコンクリートの壁が続いている。
四つ角に出た。左折する。左側に、やはりコンクリートの壁が延びている。トラックがぶつかったあとが二箇所あり、そこから鉄筋がはみ出していた。
四つ角から十五メートルほどのところでその壁が切れて、鉄格子の門が現れた。門柱には花崗岩の石板が貼り付けられており、右側の門柱の中央には真鍮を抜いて仕上げた明朝体文字で、木水建設株式会社、とある。ただし、水の字のフのところが欠けていた。ここだなと思い、もう一度携帯を出して地図を見た。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦