涼子あるいは……
この時、金吾は奇怪な衝動に駆られた。子供たちに、洗いざらいぶちまけてしまいたいという衝動だ。文字通り大人気ない行為だ。金吾はまことに情けない、ふがいない男だと自分を改めて認めざるをえなかった。金吾は、自分の瓦解が始まったような気がした。金吾は犯人扱いされ、孤立無援の状況に陥り、疑心暗鬼に翻弄され、ふと弱気になってしまい、他人に、しかもよりによって十歳か十一歳の子供たちに同情を求めようとしているのだった。追跡能力に欠けていることに不安を感じて、心もとなくなり、応援を求めた。いくら子供であれ、金吾の味方であるのは、これら生徒たちだけだった。かれらを味方として確実に取り込んでおく誘惑に、なんとも抗し難かった。そのためには、姑息だろうがなんだろうが、まずかれらの好奇心を満足させてやらねばならない。金吾はゆっくりと語り始めた。
「そうだね。君には協力してもらうことになるからねぇ、小林少年。では、少年少女探偵団の諸君に、少しだけ中間報告をお聞かせしようか」
クラスの全員が、身を乗り出した。あるものは、上体を机の上にあずけて尻を浮かし、またあるものは、机を抱え込んで、あごを上板にくっつけた。金吾は一斉の生き生きしたまなこたちの前で、安堵感を得ただけでなく得意ですらもあった。
「犯人である可能性を持つ者が三人いる。それぞれを、A、B、Cとしよう」
金吾は、Aとして校長を、Bとして山崎を、Cとして宍倉女史を想定した。
「その中に先生は入っていないのかな?」と、友彦が言い、乙女から頭をどやされた。
「そうか、大事な人物を忘れていたよ。先生をDとしよう」
くすくす笑いが教室に広がった。
「この四人は、それぞれ固有の事情で、山岸先生とは極めて親しかった」
「固有の事情なんて言われてもわかんないよなあ」と小沢辰則が、隣の席の立花寛治に呼びかけた。金吾は二人の顔を交互に見てから話を続けた。
「はっきりと言ってくれたほうがうちらとしては楽なんだけど」と姫子が口をとがらせて言った。



