涼子あるいは……
再び教室が静まり返った。生徒たちは殺された涼子の血液を連想して、不気味な感じを味わったのだろう。金吾はあわてた。その拍子にまた馬鹿なことを言った。
「何で涼子先生なんだ?」
すると姫子は立ち上がって、いかにも私は知ってるわよ、といった調子で、見開いた眼をくるくる回した。人差し指で金吾を指しながら言った。
「だって、先生、昨日も今日も涼子先生のことばっかし考えてるでしょ。もう、ボッケーとしてるわよ。そりゃそうだわよね。結婚するはずだったんだもん」
姫子は周囲を見回しながら得意そうだ。
「誰がそんなこと言ったんだ」
「誰がって。みんな言ってたわよねぇ。うわさのカップルだったじゃん。いろんなとこで、いろんなことしてたの、ばれてるわよぉ」
姫子は賛同を求めるようにうなずきながら言った。金吾は連休のときの平井川の堤を思い出す。あの兄妹。
「先生は確かに涼子先生のことは好きだった。しかしみんなも同じだろ。結婚する約束まではしていなかったね」
教室中がざわめいた。そうかなー、とか、無駄な抵抗はやめなよ、とか、野次が聞こえた。
「先生、敵討ちしなよ」
姫子が着席すると同時に、後ろの席から根岸太郎が大声で言った。
「そんなことはしない。警察の方たちが懸命に捜査していらっしゃる。必ず犯人を捕まえてくださる」
「そりゃ、嘘だな。先生がじっとしていられるはずがない」
鷲田友彦がつぶやくように言った。クラスの全員がその発言を聞き逃さなかった。その後の沈黙は、友彦の意見にみんなが納得したことを示していた。
「今までにどんなことがわかったの、明智小五郎先生」と、太郎が言った。何人かが笑った。



