小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

涼子あるいは……

INDEX|158ページ/217ページ|

次のページ前のページ
 

校長の顔が頭に浮かんだ。眼の前で、金吾を凝視している鷲田友彦の巨大な瞳が思い出させたのだ。二人とも顔が蛇に似ていた。実物であれ写真であれ、蛇を正面から見ると、金吾はいつも同じ感想を抱く。蛇は常に眼を大きく見開いて、おやっ、そこにいたの、お久しぶり、とでもいうように、にっこり笑っている。獲物にかぶりつく寸前の喜びを優雅に表している。友彦にとって、まさか金吾が獲物ではないだろうが、校長にとってはどうだかわからない。本来は、金吾が校長を獲物にするはずだった。しかし、長い舌でつるりと顔をなめられただけような屈辱感と敗北感を味わった。丸呑みにされなかっただけましだった。
血液型に関する不利を抱えながら、なぜ校長はああも余裕綽々でいられるのだろう。血液型の異同は、確率の問題ではある。しかし金吾はそこが突破口のような気がしていた。校長の血液の蛋白分析を詳しくやれば胎児と共通の特異部分が見つかるかもしれない。遺伝子鑑定で共通の鎖が見つかるかもしれない。
「うーん、まずは血液型か」
金吾はつい独り言を言った。呟きではなくかなり大きな声だった。教室中の生徒がきょとんとした顔で金吾を見た。土井智代が立って声を上げた。
「血液型って、占いとかに出てくるアレ?」
「う、うん、そうだよ」と金吾はおろおろしながら答えた。
「プチトモではねぇ、今日の智ちゃんは待ち人来たらず。それって、どういう意味?」
鷲田友彦は智代のことを馬鹿にしたような顔をしてふりむいて仰ぎ見た。占いなどこれっぽっちも信用していないぞ、と顔に書いてあるはずだ。智代は友彦の侮蔑の表情を見たせいか、顔を赤らめて坐った。
今日の生徒たちは昨日に比べるとはるかに落ち着いていた。お別れ会で悲しみを吐き出しつくしたのか、晴れ晴れとしてさえいた。
「去年、指から血とられたよね、ちくっとしただけだけど、あれ、嫌い」と中山千里。
「それがどうかしたの、先生」
姫子が長い髪を右手でかきあげながら聞いてきた。
「いや、なに、先生、ちょっと気がついたことがあって」
金吾は、余計なことを言ってしまった。
「教えて、おしえて」と姫子。
「なんでもない、君らには関係ないよ」
「じゃ、誰に関係あるの? ああっ、わかった。涼子先生でしょ」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦