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涼子あるいは……

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眼の前に鮮明に現れてきてほしい。見えてくるものが、どうか変わり果てた姿ではないように。どうか、生きていたときと変りないように。体内に大量のドライアイスが詰め込まれていようと、見かけだけでも変わりがないように。幻影でしかありえないのだけれど。幻影でいいんだから。はちきれんばかりの肉体と、はつらつたる精神を兼ね備えた涼子、ヘルメットをかぶり戦車に乗って宙を疾駆する私の女神ニケ、もう一度会いたい。忘れさせないでくれ。お願いだから、今ここに出て来なさい!
金吾はおとといの晩のことを思い出し始めた。涼子が狂騒を演じた最後の日だ。
死者のためのお別れ会の最中だというのに、想像力はまことに不埒千万である。
涼子は、合掌している両手を結わえた紐を解き、起き上がって経帷子を脱ぎ捨て、匍匐前進で近寄ってきた。二メートルほど手前で止まると眉を寄せて人を値踏みするような眼つきをした。急に表情をゆるめてにやりと笑い、舌なめずりした。
うずくまった涼子の体の下にフローリングが四方に広がり、傍らには黄色いシーツをまきつけたベッドが舞い降り、はたはたと壁が立ち上がってきて二人をとりかこみ、天井が覆い、蛍光灯が輝いた。
殺風景だが整理整頓された一DKの部屋が出現した。
涼子は床に肘と膝をつき、両手に顎を載せて、胡坐をかいている金吾を見上げた。挑戦的な両眼は人跡まれな山中の二つ連なる池だ。今にも竜神が立ち昇りそうなほどに凄愴だ。栗色の巻き毛のかなたに白磁の背中が湾曲し、大きく尻で割れている。背骨の溝にたまった汗が光る。長い右手が伸びて尻を掻いた。
さっきからしゃべり続けだ。大脳皮質が火の粉の言葉を吐き出していた。話題はめまぐるしく変わる。世紀末的歌詞をがなりたてていた頃の椎名林檎のようだ。ろれつの回らない舌で偉そうにしゃべる。
さらに這い寄ってきた。ふいに上体を持ち上げ、片膝立ててそれに体を乗せ、体を押し付けくる。
森に住んでいた獰猛な雌の獣が、何か深い誤解の結果、金吾を同類の牡と見てとって、擦り寄って来たかのようだった。
「あっ、ごめん、おならするよっ!」
プンとかわいい音がした。
涼子は右手を伸ばして金吾のズボンの内側に指を四本差し込み、ボタンを親指で押してはずす。チャックを引き降ろす。四つんばいですばやく金吾の背後に回りこみ、尾?骨を小突く。
「はい、お尻!」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦