涼子あるいは……
霊柩車は、金吾の左前方三メートルのところにとまった。教頭の弔辞、生徒代表の六年、伊東彰介の弔辞、涼子の伯母の挨拶、いずれも涙ながらのものだった。
その間、金吾は霊柩車から眼を放せなかった。
誰が君を殺したのか、どうして君はあんな残酷な殺され方をしなければならなかったのか、たくさんの秘密のひとつでも、どうして打ち明けてくれなかったのか、悩ますのを慮ってか。それで殺されたとしたら、なんとばかげたことか。なんでも許すつもりだったのに。なんでも共有する覚悟だったのに。その覚悟が君に伝わっていなかったということか。君にとってはそんな程度の男だったのか。君は付き合っていた男を本当は信頼していなかったのか。信頼している振りを見せていただけだったとしたら残酷な仕打ちだ。なぜそんなことをされなければならなかったのか。そうか、君を理解していなかったんだ。役者不足だったよ。力が至らなかった。
力至らなかったから、信頼してくれなかったのか? 力至らなくても信頼はありえたんじゃないか? あれがあるっかぎりだったのだ。かみ合ったぞ、という実感があったんだ。あれが間違いだったって? こちらだけの思い過ごしだったって?
ぜひ聞きたい、ほんとはどう思っていたんだ、なんと思っていたんだ?
そもそも、いったい君はだれだったんだ……
金吾は霊柩車の中の棺をありありと思い描いた。
棺の中にあお向けに横たわる涼子を透視する勢いだった。
今すぐ会いたくてたまらなくなった。涼子の幻影を集中力のかぎりをつくして呼び出そうと努めた。
時が経てば、去るものは日々に疎し、印象は薄れていくはずだ。
涼子の肉体は、急速な分解の過程にある。火葬場で、その行き先は天と地に別れるだろう。天に昇る部分は、大気と水の循環の中にまみれ、地に残った骨は、生まれ故郷の長野に帰って行き、やがては粉塵と化すだろう。残酷で当然の結末だ。
眼前三メートル。これがそばにいられる最後の時だ。これからは時間的にも空間的にも離れていくばかりだ。



