涼子あるいは……
校門の左右に、テレビ中継車が三台ずつ駐車していた。自家発電機の音がけたたましい。ブロック塀の上に、中継車の屋根だけが並んで見えている。テレビカメラには人がついていない。高い位置にいるのは礼を失するとわきまえているらしい。校門の前にも報道のための脚立はない。黒装束のPTAたちが群がっている。校門の鉄柵を隔てて手前に、制服姿の守衛がひとり立っている。携帯電話を耳に押し付けたままだ。
守衛が右手を高く上げた。
校門の左右の桜は、濃い青葉を茂らせてかすかに揺れている。その枝には、野鳥のための餌台がしつらえてある。生徒は、夏休み中も、棒の先に餌をつけて、それらの餌台に家から持ってきた残飯をなすりつける。それを目当てに、鳩、つぐみ、すずめ、モズ、烏がとまっている。その鳥たちが一斉に斜め上方に飛び立った。同時に校門の向こう側の人たちが南方、金吾からは向かって左側を見た。人の群れが左右に分かれた。守衛は蛇腹式の鉄柵を押し開いた。
報道陣や父兄は入れないことになっていたが、たくさんの人間が、後ろから押されたのでしかたなく、とでもいったふうに、門の内部に入り込んできた。洪水で土手が決壊したようにあとからあとから人々が校庭内になだれ込んだ。
校門をはさんで、桜の木の下に左右十数メートルずつの黒い人垣ができた。
教頭が号令をかけた。
「正門に向かって、気を付け!」
声が震えている。
生徒はいっせいに正門のほうを向いた。
黒塗りの霊柩車が巨大なカブトムシのようにのっそりと校庭に入ってきた。
あちこちからするどい悲鳴が上がった。すすり泣きが始まった。生徒達は身体を硬直させたまま顔を伏せ、倒れる寸前のコマのように揺らめいていた。教師たちの中にもハンカチで眼を押さえ、あるいは下を向いて肩を震わせる者がいた。
車が校庭の第一コーナーに達したところで、再び号令がかかった。生徒は正面を向く。
車はタイヤで校庭の砂を音立てて踏みしだきながら金吾の眼前を通り過ぎた。徒歩より遅い速度だったが、金吾にはなぜか猛スピードで疾走しているように感じられた。
はぜた砂の一粒が金吾の足元に飛んできて、歯軋りみたいな音を立てて着地した。付け文でくるんだ合図のつぶてだという妄想が湧く。あわてて探したが、たちまち他の砂粒と見分けがつかなくなった。



