涼子あるいは……
まあ、とにかくも、あなたの防衛的な姿勢は明らかです。警察はあなたをはじめからはずしているようなので、わたしさえ詮索しなければ、あなたは安泰なのです。突拍子もないことを言って申し訳ありませんが、私のこと、とてもとてもうるさく思ってらしゃるのかな?」
「うるさくなんて思ってませんよ。私があなたの歳だったらまったく同じことをやっていたことでしょう。当然のことです。当然をうるさいと切って捨てるのは、老人の頑迷固陋でして、私はまだそこまで歳とってはいない。ただ、明らかに無駄なことは、なさってもまさに無駄です」
「無駄とはまったく思っていません。そんなことを言われても、私はたぶらかされません。そもそもなぜ無駄だなんて、前もってお分かりになるんですか? 理性への裏切りが、その辺にも垣間見えますね。あなたの不自然な発言で、私の疑惑はいや増すのですが!」
「若いエネルギーに嫉妬いたします。せいぜいおやりなさい。もともと私は協力者ですぞ」
「さっきから敵のように思えて仕方ないんですよ」
「若いときには敵を不必要に作りたがります。それで鍛えられますから、かまわんのですが、今回の場合は、消耗に終わるでしょう。何度でも申し上げますがねぇ。あなたは今、異様に猜疑心が強くなっておる。不毛な情熱だなとつくづく思います。なにを知ることになると思っているんですか。彼女の過去を、そんなにも知りたいのですか。あなたを取り巻いていた現実を、そんなにも知りたいのですか。もしかして、眼や耳をふさぐような過去かもしれませんよ。どうにも納得のできない事態を眼にすることになるかもしれない。これから生きていく気が失せるようなあなたの本来の姿が、彼女との関係において出てくるかもしれませんよ。あなたと世界との吐き気を催す正体と運命を見てしまうかもしれないではないですか。馬鹿げたことをなさろうとしていらっしゃいますね。前もってねぎらいの言葉を申し上げますよ。お疲れ様ですな」
校長は、人を不愉快にすることで話を打ち切りたがっているようだった。
金吾は、校長の人格に対して根本的な疑問をいだいた。そもそも怪しげな人格の持ち主だとは感じていたが、今、実感が伴ってきた。



