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涼子あるいは……

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「認識にモラルなんぞありませんよ。目的的な行動を廃し、いわば、後ろ向きに進んでいってドンと壁にあたったときに振り返ればよいのです。その、当たったものを真実であると仮にみなします」
金吾は不愉快だった。校長は、面白がっている。じつに多弁だ。
「ああ、それは違う。モラルがない認識の、おびただしい氾濫と、無限時間をねだらざるを得ないようなえげつない精神の振る舞いは、生に反します。認識の成果を記述しようと試みてごらんなさい。たった一行の判断が万行の仲介を要し、次の一行に跳び移るのに千里をまたぐ必要であることがお分かりにならねばならない。この千里をまた一行一行石を投げ入れるようにして埋めていくのです。だが、見れば埋まったと思った千里の幅の渓谷の、ひとつひとつの岩石同士の間にまたもや千里の幅の渓谷が開いているのが見てとれます。実にきりがありません。その無数行にまたどれだけの注釈がいるか。認識は各辺が無限濃度の無限次元の判断の塊です。認識の対象であり対照であり永遠の敵であるカオスになんと似ていることか! われわれは実は拒絶されているんですよ。認識に忠実だなど笑止千万です。スキップする恣意を持たなければ無限時間をかけて狭間を埋め続けねばならない。この恣意がモラルの本性です。モラルの社会性とは、煎じ詰めれば、恣意の有効性への賛成投票のことでしょうが。恣意は精神の健全のためには必要不可欠です。なんら歪曲なんぞを意図していない。そうせざるをえないからしているに過ぎない。
モラルをお持ちなさい。この私がモラルを持てと言うのは君にとっては大笑いなことなんでしょうが。はっはっはっは。ああ、私も笑っちゃった。ごめんなさい。ごめんなさいだが、僭越ながらもそう申し上げるのは、とっても正当ではあるでしょうな」
校長はひどく興奮していた。常軌を逸していた。金吾は校長の心の暗黒を覗き見た気がした。その暗黒に向かって話しかけた。
「あなたには良心の呵責は当然ありましょうが、理性の呵責はないのですか? あなたのような理性的な方が理性を裏切るとはいったい何をしでかしたからでしょうねえ? 私の疑惑は尽きません。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦