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涼子あるいは……

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「山岸涼子とはどういうご関係でしたか?」
校長はそれを聞くやいなや、ごろりと仰向けになり、大声を立てて笑った。笑いがしばらく止まらなかった。
「君がご覧のとおりの関係でした。見えているとおりのことしかありませんでしたよ。ご安心ください。君にも、ほかの誰にでも、はっきりと見えているような関係でした」
「あなたは、涼子からCDか何か預かっていませんか?」
今日、三度も問われてきたことを、こちらから問うた。
金吾は、組合の内部情報の入ったCDを意味したのではなかった。校長と涼子が男と女の関係にあったとして、涼子のプライバシーをふくんだもののことだった。金吾に渡したように校長にも渡した、と金吾は狂おしく疑った。嫉妬心の蹂躙を許している自分が情けなかった。
まともな答なぞかえってくるはずのない問だった。そして、金吾は、自分が校長に投げかけている質問のすべてはその類のものであることをしぶしぶ認めざるをえなかった。
「君こそ、そういうふうなものを預かっているでしょうに。差出がましいようですがね、捨てるなり、砕くなりすべきでしょうな。彼女も愚かなことをしたもんだ。そんなもの、誰のためにもなりゃせんのだ」
金吾は、警戒した。校長の顔を異臭を発する珍しい異国の果物ででもあるように、嫌悪感と好奇心をもって観察した。このような、人を悩ます発言を平気でする人格とはいったいどんな由来を持つのだろう? その異国の果物が口をきく。
「君はいったい何を知りたいのですか? 何もないところに何かを見ようとしたり、知りたくないことをあえて知ったりして、どうなんでしょうね、楽しいんでしょうかね。自分のためにもだれのためにもならないことをしてなんになりますか? 知らないでいいことを知って幸せですか? 認識の蜜は常に甘いなどと、誰かが嘘っぱちをほざいていましたがね。認識の絞り汁は常に、例外なく、酸っぱい。苦い。当たり前の経験則です。
あのね、知らないでいいような隠されたことなどないんですよ。知ろうとする前におのずと知れます。知りたいことなんて幻想です。知らなくていい…… おや、私は何を言ってるんでしょうかね。とにかく言いたいことは、わざわざ知ろうとしなくてもいいってことなんですよ。無駄なんです。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦