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涼子あるいは……

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「六時です。九時二十分に、新潟駅からすぐのホテル万代にチェックインしました」
「今朝、アルコール以外に、眠剤か何かを服用なさっていましたか?」
「ほぼ毎日酒は飲みます。睡眠薬も時々利用しています。メラトニンやハルシオン程度の軽いものですがね。しかし、朝に睡眠薬を飲むのはよほど限られた状況下での話でしょうな。もちろん私は、今朝、そんなものを飲んではおりません」
「そうは思えないのですが」
校長は含み笑いをした。
「ははあ、そのしゃべり方ねえ。あなた、警察の取調べを受けられたはずですが、その影響があらわでありますな。私も、若気の至りで、警察の取調べを受けたことがあります。あの後はしばらく精神がひりひりしてましたっけ」
校長はあわてない。左の体側を下にして、肘まくらをして、金吾を興味深げに眺めている。
「しゃべり方が失礼であったことはお詫びします。こういう状況ですので私も興奮しております」
金吾はしゃべり方のどこをどう直せばいいかわからない。
「今おっしゃった、御自身が警察の取調べを受けたことについて、お聞きしたいことがあります。実は、ここに来る前に下宿に寄って、父の日記を調べてみました。先生は、六十九年の春に、凶器準備集合罪で、文京区の本富士署に長期拘留されていますね。それ以降、検挙歴はない。そのときの署長が、現在の警視総監です。彼とは、当時から今まで付き合いが続いていますよね」
「まさか。ご冗談を。ほう、あの署長が、総監になっとるんですか。おおかた、ちょび髭でもはやして、えばっとるんでしょ。知りませんでしたなあ」
金吾は、目の前の人物をふざけた男だと思う。現警視総監が髯を生やしているのは、新聞に出ていた顔写真で知っていた。
「山岸涼子の妊娠はご存知でしたか?」
「えっ、そうだったんですか?いや、まったく知りませんでした」校長は眉毛を吊り上げて眼を剥いた。
「今はじめて聞きました。驚いたなあ」
とっくに教頭から聞いていると金吾は思っていた。袋田は教頭に教えなかったのか? 
金吾は、懸命に校長の表情をうかがった。瞳孔だけの眼が見開かれたままだ。瞬きなしで、何秒も、静止画像が続く。瞬きをしてこなかったからこそこんなにも眼が悪くなったのかとさえ思わせた。金吾は薄気味の悪さを感じざるをえなかった。金吾は堪えきれずに口走った。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦