小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

涼子あるいは……

INDEX|131ページ/217ページ|

次のページ前のページ
 

「さっきの押入れをまた開けていただくわよ。左下に、和服の小物入れがあるわね。小物なんかもうほとんど入ってないわ。大物も、冠婚葬祭用にひとつ残してあるだけ。その小物入れの一番上の引き出しを開けてちょうだい。手帳みたいな小さなアルバムがあるはずよ。それを、心ゆくまで御覧なさいな」
それはB5版ぐらいの大きさだった。金吾は、その場で立ったまま見ようかとも思ったが、思い直して、それを持って来ると、テーブルの上にひろげた。女史の説明をぜひ聞きたかったからだ。
「これは研修中の涼子さんよ。私が初めて彼女を撮ったときのものよ。まあなんてきれいなお嬢さんだこと、撮り甲斐があるわ、カメラも本望でしょうよ、と思ったわよ。それからは、私、彼女の専属カメラマンみたいに、撮りまくったの。私たち二人が並んで写っている写真も多いわよね。
デジカメなんか持ってないわ。亭主の形見のニコンで撮るの。静岡にいる甥っ子にフィルムを送って現像してもらうの。
ほら、君、これ見てよ。酔った勢いで見せちゃうわ。ああ、もう、恥ずかしい。自動で撮ったの。ここのバスルームよ。二人で流しっこしたの。涼子さんの体は、ゆで卵をむいたみたいに全身つるんつるんで真っ白で、わたし思わず抱きついちゃったわよ。しかしねえ、見るたびに思うけど、同じ女なのに、月とすっぽん、よくまあこうも違うわねえ。美女と野獣だわ。私はメスの野獣よ。
このフィルムを送ったときは、甥っ子から早速電話がかかってきたわ。おばさん、どういう生活をしてるんだ、だってぇ。
君、こんな写真を見られてうれしいでしょ? ここに来た甲斐があったでしょ?」
見開き二ページに、四葉の写真が貼ってあった。
左上には、二人一緒にフロに入っている写真。二人とも顎を縁にかけて、両手でピースマークを作って笑っている。涼子は眼をひがら眼にしている。金吾が女史に嫉妬するほどに楽しそうだ。左下は、並んで後ろ向きに立っている写真。きゅうりとかぼちゃだ。右上には、後ろ向きで正座しているもの。涼子の背中はバイオリンのようだ。マン・レイが撮ったモンパルナスのキキを髣髴とさせる。右下で、二人は前向きに正座してすましている。女史の下腹には縦に十センチほどの手術痕がある。帝王切開の痕のようだが、女史に子供はいないはずだ。婦人科系の病気を患ったことがあるのだろう。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦