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涼子あるいは……

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いや、そんなはずはない。私はいいのよ、と言おうとしていたかもしれないが、そう伝える前に殺されてしまったのだ、一人ではなく二人に。客にはわざと黙っておいて、出されたときの客たちの喜びようを期待して、ケーキを焼いていたのではないか? 彼らがケーキが焼かれつつあるのを知っていたなら、殺害後にオーブンのスウィッチを切ったはずだ。ケーキの生地をオーブンに入れてスウィッチを入れると、涼子は居間に入ってきた。ちゃぶ台の前に坐った。客のひとりが涼子の気を引きつけておいて、油断させる。もう一人が背後にまわる。正面の人物は、熱弁を振るい、涼子の関心を独り占めにする。そして背後からコンと一突き。一瞬で永遠の暗闇に転落だ。殺人者達は逃亡する。そしてケーキは焦げていく……
金吾は、二枚の小皿を、キッチンテーブルの上で、隣り合わせに並べたり、向き合う位置に引き離したりした。二度、三度……
「お皿もフォークもひとつずつ元に戻して。あ、いえ、背中側のガラスケースに入れてね」
金吾は、そう言われても突っ立ったままだった。
「ぼくも、いいです」
金吾はそう言ってその場をごまかして、二人分の皿とフォークを食器棚にかたづけた。金吾が立ち去った後で女史がケーキを探し回る姿が目に浮かんだ。
頭がぼおっとしてきた。涼子は二人の男に裸体をさらしていたのか? 金吾は乾燥機に入っていた食器類すべてを棚に収納してしまった。機械的に身体が動いてしまった。くそっ、なんでこんなことをしているのか。
「おかたづけの音が聞こえるわ。ありがとさんね。ついでに、クーラーボックスにお寄りになってね」
金吾は再び三リットルの樽を女史の眼の前においた。
「今までしゃべったようなことより、あなた、涼子さんがめったなことでは明かさない生い立ちや悩みや秘密を知りたいんでしょ?」
女史は、まだまだ隠し球はあるんだとでも言うように、首を左右に揺らしながら金吾の顔を覗き込んだ。金吾以上にはあまり知らないと言っていたさっきの女史はどこへ行ったのか。
「涼子さんの写真が何枚かあるわ。小さなアルバムに貼ってあるわよ」
金吾はすっくと立ち上がって指示を待った。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦