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涼子あるいは……

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男の方たちってえのは、つまらないことになんであんなにこだわってもめるんでしょうかねえ。公費で検診を受けられるんですからむしろありがたいことでしょうにねえ」
女史はため息をつきながら話を締めくくった。金吾は、つまらないことと一蹴する判断には同意しかねた。反論する気もなかったが。
女史は両足を投げ出して、腕組みをして、上体をのけぞらせた。相撲取りが髪を結わせているかのようだ。しかしそれもつかの間、太った体を前にかがめて、右手の人差し指を立てて揺らしながら、金吾の顔に自分の顔を近づけてきた。
「ところが、涼子さんの代になってしばらくすると、あんなに反対していたアジールの先生方が、あっさり健康診断と献血をお認めになったんですよ。涼子さんが困っているから同情したのかしら? おばさんだって大困りでしたよ、七年も。その間、アジールの先生方、あたしのことなどそっちのけだったのに。涼子さんの説得には耳を貸したみたい。
校長管理の健康診断記録も、緊急時の迅速対応に備えて、という理由で、養護教諭の管理下におかれるようになりました。PTA側からの要求もあったようです。官庁も黙認したようでした。
奇妙なのは、アジールの先生方がむしろこのことを歓迎したことです。保管場所は校長先生のところよりかは涼子さんのところのほうがいいってんでしょうか。私は、涼子さんに、仕事が増えちゃうわよ、拒否なさいよ、と言いましたが、彼女は、ただ保管するだけだから、と笑っていました。私、涼子さんが、両派の対立を和らげようと苦労なさっているのを知っていました。校長先生は、涼子さんをかわいがるし、アジールの方たちも、涼子さんを信用なさいました。その涼子さんが間に入ったことで、両派の緊張が和らぎました。
しかしまあ、皆さん急に涼子さんのファンになっちゃって。いくら涼子さんがきれいでやさしくてかっこいいからっていったって、あの厳しい対立はどこへ行ったんでしょうねぇ。おばさんには意味がわからない。男の人のすることはまったくわっかんないわあ」
女史は悲しそうに笑った。先ほどと同じような話のおさめようだった。大またを開いて両肘を両ひざについている。苦しくないかと危ぶまれるほど窮屈な姿勢だ。
「あんた、おなかすいてない? 冷蔵庫にチーズケーキがあるの。
誰が作ったと思う? ほかならぬ涼子さんよ」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦