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涼子あるいは……

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いや、やっぱり、おばさん、何でも言いますよ。まあ、あなたもお気をつけになってという意味で、またもやここだけの話ですけども」
女史は、さらにビールをジョッキに注いで、今度は静かに飲んだ。背をピンと立てて、まじまじと金吾を見つめた。
「あの方たち、私が赴任して一年目に大喧嘩をなさったのよ。
もう六時をすぎていたと思いますけど、私が残業で記録整理をしていますと、校長先生が、酔っ払ったような勢いで保健室に入っていらっしゃいました。顔の左半分が血だらけで、どうなさいました、と私が震えながら尋ねると、やつらに殴られた、とやはり震えながらお答えになりました。後頭部を棒か鈍器のようなもので殴られたようで、血が止まりません。背広の襟口から背中にかけて真っ赤です。私はすぐ応急措置をしましたが、血がどんどん沸き出てきて、怖くなりました。救急車を呼ぼうとすると、なぜか、校長先生は、やめてくれとおっしゃいました。そして、あいつら全員ホームレスにしてやる、などと、あのいかにも紳士然とした普段の校長先生とは思われない、さも憎々しげな形相をなさって、吐き捨てるようにおっしゃいました。私、思わず眼をそむけました。
しばらくして、保健室の前に何人かの足音がきこえて、引き戸をどんどんと叩きます。私は、校長先生がおいでになったときに、事情を察して鍵を締めておきました。戸の向こうでは、回し者、とか、裏切り者、とかの罵声が飛び交っておりました。私は怖かったけれども勇気を振るって、皆さん、お静かに、今日はお引き取りください、さもないと警察を呼びますよ、と叫びました。なにやら、ぶつくさ言っているようでしたが、やがて静まりました。帰ったようでした」
女史は金吾の反応をうかがうように眼を見開いて首をかしげた。金吾は自慢話を打ち明けられているような妙な感じを持つ。
「校長先生はしばらく保健室にいらっしゃいました。事情は説明なさいませんでした。
私は、両派の方々が、生徒たちが下校したあと、職員室で怒鳴りあっているのは何回か見聞しておりました。いずれは暴力事件に発展しかねないと心配しておりました。当時、健康診断と献血の問題について、両派は激しく対立していたのです。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦