涼子あるいは……
肘掛け椅子と直角に置いてあるソファに、彼女はどっかと腰を沈めた。大きなジョッキにビールをついで、古びた木製テーブルの上に置いた。瓶はたちまち空になる。
「涼子さんの何をお話したらよろしいかしら? あなた以上のことは、おばさん、知らないと思うの。あとでがっかりさせたくないから、今言っておきますよ」
金吾はそれをあやしいむ。涼子の話に出てくる女性では、女史が最も頻繁だった。女史は、単なる先任者以上の役割を果たしていたようだった。
「ハイ、乾杯しましょ」
仕方がない。軽くジョッキを合わせて同時にビールを飲む。涼子が死んだ直後であり、これから涼子を話題にするはずなのに、乾杯とは不謹慎な、と金吾は呆れ気味だ。早くも女史の毒気に当てられかけていた。
「警察の人は来ましたか」と金吾は口火を切った。
「はいはい、いらっしゃいましたよ。若い刑事さんと年配の方と二人、お昼休みにね。あなたが電話をかけてきたあとすぐに、福生署から電話があったのよ。夜は予定があると言ったら、今すぐ行くだって。私、やってきた刑事さんに向かって、涼子さんを絶賛しましたのよ。玄関での立ち話でだったけど、どんなにすばらしい方だったか、具体的に、いっぱいしゃべりましたの。なのにあの若い方の刑事さんったら、途中でメモをとるのをおやめになって、私の顔をじろじろ見るんですもの。失礼じゃござんせんこと? なんてぇ名前だっけ、名刺はくれたのよ、あの若い人。ああ、町田巡査部長。お連れはもっと失礼な人。会釈だけして警察手帳も見せないし名刺もくれないで、玄関の外に出ちまって。ビニール袋の中の缶コーヒーだか麦茶だか知りませんがね、中年おやじのくせに高校生みたいに手すりに腰掛けて飲んでるだけ。
十分ぐらいでお帰りになりましたわ。あのひとたち、なにしに来たのかしら。頼りないったらありゃしない」
言い終えて、彼女はビールをぐびぐびと飲んだ。ジョッキが空になる。袋田が、金吾に対する事情聴取前にも飲んでいたことが分かった。金吾は立ち上がってキッチンに入り、指示を待つ。
「左側に専用のクーラーボックスがありますからね。おっきい缶を持ってきてくださる?」



