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涼子あるいは……

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そう言いながら山崎は楽しそうに、しかし薄気味悪くニタリと笑った。
金吾は、馬鹿ばかしくて話にならん、と笑いのめしたかったが、全身に悪寒が走って、そうは出来なかった。
山崎は狂いかけている。戦慄すべき精神の荒廃の中にある。彼にとっては、妄想こそが事実であり真実だ。猜疑がそのまま推理となるのだ。人の言うことをなにひとつまともに聴いていない。自分の発言だけに聞きほれている。妄想と猜疑の泥にもぐりこんで、錯乱し、白日夢に耽り、寝言をわめき続けているではないか。
山崎は語り続ける。
「実は、取引したい件があってさあ。
涼子が急死しちまってから気がついたことなんだがな。かなりの量の資料がなくなってんだよ。パソコンの中身のいくらかも、ロックがかかってて開けられないんだ。ドジな話だよ。紛失した資料も、ロックのかかっているデータも、CDかなんかに保存して誰かに預けた可能性があるんだ。まあ、お前しかいないね。
そいつを買いとりたい。
俺たちは金持ちだ。会費の積み立てだけでも相当ある。総会屋もやってきた。やくざと競争で、企業の喝アゲもやってきた。資金は常に株、FX、ゴールド、国債、不動産なんぞに投資して回転させている。ポリからもらう金の十倍払う。預かってるものを出せよ。ま、今すぐにとはいわん。電話しろよな」
金吾の頭の隅を、鏡の裏のCDが掠める。内容は山崎の言うようなものではないはずだ。
「あんたの妄想に付き合ってはいられない。あんた、もう、手のつけようがないな」
金吾はあまりのおぞましさに声を震わせながら立ち上がった。
金吾の内心は混乱を極めていた。
山崎、あるいは、その一派が涼子を殺したのか? 山崎は、疑わしい素振りをわざとのように見せてはいるが、殺ってないようにも見える。だが一方、断固シラを切っているようにも見える。狂気の山崎が何をしたかはわからない。個人ではなく、集団の論理が働いた場合は、いかにも殺っていそうな感じである。山崎自らが殺ったのかもしれないし、組合員の誰かが殺って、山崎がその者をかばっているのかもしれない。
涼子殺しの犯人については、結局はっきりとはわからなかった。金吾は落胆した。山崎の狂気に腹を立てさせられ、、屈辱を浴びせられ、誤魔化され、たぶらかされた。不甲斐ない…… 
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦