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涼子あるいは……

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亭主は、手のひらでぴしゃりと額を弾くと、後ろの棚から盆を取り出し、頭の後ろにかざして、片足でとんとんとんと跳ねて見せた。しかし、急に盆を流しに投げ出すと、しゃがみこんだ。ゆっくり立ち上がって、見せた顔は、いかにも不快そうだった。
「お客さん、いい加減にしてくださいよ」
山崎は、ふん、と言ってむこうを向いた。金吾は逆方向に顔を背ける。山崎がもとの低い声で、口を開く。 
「あのなあ、組合活動の五W一Hが敵に具体的にわかっちゃってるってえのが俺たちには不快で不思議だったのよ。どうして、ディテールが通じてんの? ここ半年でパクられたのが六人、任意出頭は二十人以上でっせ。俺も福生署に何度も行ってるよ。迷惑千万。去年までは上手くいっていたのに何でここんとこ急におかしくなっちまったのかね」
山崎は黙り込んだ。金吾は、うとうとし始めたのかと思って山崎のほうを向いた。彼の血走った眼が、すぐ目の前で待っていた。
「俺たちは教組としては全国一の組織だと自負している。行動力では日教組をはるかに超える組織だ。しかし、結局は終焉を迎えるしかない過去の組織でもある。こういうのはもう続かないぜ。それはわかっている。だが、あとしばらくの延命は図らねばならん。その延命は、組合員個々人の延命と重なる。せめて俺たちが幸せにジジイなりボケなりにころがりこむことができるまでは、組織を生き延びさせ、俺らも生き延びねばならん。解散するとか、生き方を変えるなんて無理さ。俺たちはこのようにしか生きてこれなかったし、これからの、おそらくは短い生も、同じようにしか生きられないのだ。
おい、わかるか? ちぇっ、わからんでもいい、くそ、わかってたまるかって!。
裏切り者がいたんだ。通報者がいたんだ。そのせいで組織の中の人間が互いに信頼をもてなくなっちまった。早く、そいつを、見つけ出さねばならんかった。
消耗だったぞ。まったく、ため息の連続だったぞ。何で内側に向けてこんなに時間とエネルギーを使わないといけないのか。外に向かって突破するチャンスなど、もうわずかしかないんだ。俺たちに残された時間は残り少ない。しかし、組織のどこかに宿してしまった癌は、自分たちの手で除去したかった。ぜひ内輪で解決したかった。ところが、官憲が介入してきた。俺たちそのものをなるべく早く社会から除去しようと迫ってきたのだ。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦