涼子あるいは……
「いちいち失敬と言わなくてもいいです。失敬と言い続ければそれだけでいつまでも無礼は許されるもんなんですか? しつこく私を犯人よばわりする人には言ってもムダですがね。私だってさっきからあなたが犯人だと言いたいのを我慢しているんですよ。あなた、私の我慢をいいことに、放言三昧ですねぇ。ただ、さっきのは問題発言です。聞き捨てなりません。袋田警部が困っているとはどういう意味ですか?」
「意味が本当にわからんのか? そうかあ? 嘘だろう?」
「ついでに言っときますが、私は気分が変化してきた。単に不快なだけじゃない。もう相当腹を立てていますよ」
「腹なら勝手に立てるがいいさ。俺だって、何ヶ月も前から腹ぁ立ってんだよ。ところで、袋田と喧嘩したか?」
「しそうになりましたが、疑いが薄くなったので彼も途中からはおとなしくなりました。しつこかった尋問も途中から腰砕けになりました。そう見せかけて私を油断させようと思ったのかもしれないですが」
金吾は、自分が袋田をだしにして山崎の思い込みをほぐそうとしているのかもしれないという不安に駆られた。卑屈になっていないか。怒りを我慢しながらだから、なおさら気になった。その上、自分にも腹が立ってきた。
「疑いが薄くなっただって? 君はどんなポイントをあげたんだい? ま、いいや。しかし、そうなると袋田はほっとしてまたお友達になりたがっただろ。さらに深い友情を結びませんか、と提案してきただろう」
山崎の異様な発言に金吾は眼を丸くする。
「またお友達に、とか、さらに深い友情、とか、いったい、どういう意味なんです? さっきからの発言、よく分かりませんね。あなたは、何を前提にして、何を想定して、話してらっしゃるのか。隠している事をフェアーに言ってから議論をしてください。よく見えないですよ、話が」
金吾はいらいらして声を荒げた。山崎あるいはその一派は、金吾が犯人であると疑っているだけでなく、とんでもない勘繰りをしているらしかった。金吾は心配だ。これらの迷妄あるいは仮構をかいくぐって、涼子のところまでたどり着けるのだろうか。
山崎は前を向いたまま口を開く。
「おいおい、とぼけるなよ。袋田たちとあんたの隠されてきた固い絆のことを言っとるのよ」
山崎は単純にくり返すだけだ。