涼子あるいは……
「あーあ、暑いな。まこっとに暑いな。オヤジ、あそこにかかってる太陽をどけてくれ。俺、暑いのと寒いのとどっちが嫌いだったっけか……」
山崎は首を両腕の間に落とす。金吾は妙な感じがしてきた……
やがて山崎はトイレに立った。金吾は、その間考える。金吾を犯人だと、冗談半分であれ、くりかえし執拗に言っている意図は何か。
山崎、あるいは、その一派が犯人だとしたら、あくまでしらばっくれて、金吾を犯人だといいつのって、自分たちの犯行の言い逃れをしようとするだろう。誰もが納得する犯人候補は彼ら以外には金吾しかいない。この状況を利用しない手はない。金吾を犯人にでっち上げるために金吾のあらさがしをするだろう。
彼らが犯人でないとしたら、彼らは本気で金吾を疑っている可能性が高い。厳しく追及してくるだろう。アジールは、自分たちが犯人だと警察にねめつけられることは、特にガサ入れをされることは、必死で回避するだろう。金吾のせいで犯人にされそうだと知って、袋田よりも果敢に白状を迫ってくるかもしれない。山崎は、金吾の尻尾を何とかつかもうと躍起となるはずだ。
結果として現象的には、どっちにしろ、同じような境遇にもうすぐ金吾は追いたてられそうだった。山崎は、金吾が犯人であると人にさらに強く疑わせる効果を持つようなことがらを収集するために、金吾をここに呼びつけたのかもしれない。下手をすると袋田と山崎がグルになって攻めているのかもしれない。また罠にかかったのだろうか? 愚かしさを反省しても遅いが……
金吾は、席に着いた山崎に、内緒話でもするように、わざと恨みがましく伝えてやった。
「疑われている順番なら、あなた方が一番目ですよ」
「ほう、袋田がそんなことを言ってたかい。やつなら言いかねんな。君より俺らのほうが位が上だとぬかしたのか」
いやに得意げな顔つきを山崎がしたので、金吾はあきれて相手の顔を見直した。
「しっかし、袋田も困ってるだろうな、君がこんなことをしてくれて。おっと失敬。仮にかりに、架空の話としてだなぁ、君が犯人だとしてのことだ」
意味不明の発言だった。