涼子あるいは……
逆に君がどこかの女に手を出したのかも知れん。昔の女と切れてなかったことがばれたのかも知れん。若い男の生理は抑制をうけつけない。生理的欲望は理性を手下にして巧妙に発露するもんだ。俺にも覚えがあるな。で、やっぱり喧嘩。
プライドの異様に高い二人は互いに後には退かない。お互い、すねに傷持つもんだからこそ相手の戦術がよく分かるのが忌々しく、どんがらがっちゃん、ついには過激な解決に至る。とっても過激で凄惨だったんだろうねぇ。
いや、すまん。失敬はわかったうえで言っとるんだけどもね。今回の事件についての俺の率直な感想なんだ。というか、ありきたりの妄想にすぎない。だがな、俺だけではなく、警察も世間も同じ感想を持っているぜ。痴話げんかの挙句、だってさ」
金吾は、山崎の猥雑きわまる妄想に、たちまち不愉快になる。世間も言っているのだから、自分の悪妄想は無罪だ、と主張する下劣な根性。時が時だから、優位は明らかだから、それを開陳するのが許されると思っている。しかし、そんなことを披瀝したいだけて金吾を呼びだしたのではあるまい。真意は他にあるはずだ、何らかの情報を金吾から獲りたいのだ。金吾は苦々しく思いながらも期待した。ここは山崎の目的を知るまで我慢をしようと思った。我慢力には自信があった。
うんざりしながらも、金吾は言い返す。不快感を少々は表明してもいいと思った。こちらも酔ってきたのだ。
「まったく酔っ払いは失敬ですな。私も年に一回ぐらいは失敬な酔っ払いになるような気がしますが、あなたのレベルにはとてもとても。あっ、私、あなたをけなしてんですよ。まあ、いまさらあなたのような筋金入りの酔っ払いをけなしても仕方ありませんがね。私は怒りませんよ。あなたはもうしょうがありませんので、怒りの対象にはなりません。あなたは、そうやってどんどん落ちぶれていくんでしょう。理解はしますが、同情はしませんね。それにしても実に実に下品で猥雑な妄想の持ち主ですね」
「そうだ。しょうがないさ。もともと、俺も警察も世間も下品で猥雑なんだ。昔からついぞ変わらん。ついでに言うが、ほとんどのやつは酔っ払いだぜ。蔓延して止まない不況とアル中。下品で、猥雑で、不道徳で、酔っ払いだ。上も下も右も左も。それが日本の現状だ、未来だ! 」
山崎はいまや酔っ払いの本領を発揮し始めた。どなったと思うと小さくつぶやく、