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涼子あるいは……

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山崎の息はとても臭い。昼過ぎから飲んでいるのだろう。金吾がわざわざ飲ませる必要はもうない。無理やり店を開けさせようと亭主に電話している山崎の姿が眼に浮かぶ。飲んだくれているのは、事情聴取で面白くないことでもあったせいだろうか。それはお互いさまだった。
「こんなときに、まだ、組合に入れって、勧誘するつもりなんですか? 何度も断ってきたんですがねえ」
「用件を早く言えってえんですか。そんなにいやな顔をするなって。今日は勧誘じゃない。そら、もういっぱい」
山崎はまたもや瓶をつかんだ。その口調はあっというまにぞんざいになった。金吾は再び山崎の顔を見た。すでに目が坐っている。あきれた。警戒心が生まれた。つられて飲むのはよそうと思った。
「夜出かけますので、あまり飲めませんよ」
さし出したグラスに注ぐ山崎の手が小刻みに震えていた。こいつ、アル中か。金吾は不快感にさいなまれながら、ぬるいビールを飲んだ。
「わざわざ呼び出したのはほかでもない、君と山岸涼子論をしようと思ってね」
「望むところです」
金吾は急に楽になった。
「教員の中で一番ショックを受けているのは君だろう。いや、全人類の中でもっともショックを受けているのは岡田金吾先生だ。まことに、ご愁傷さまでございます。山岸先生の彼氏だったことはみんなが知っている。ラブラブの関係だった。理想のカップル。羨ましいったらありゃあせんかった」
山崎はだぶついたのどを伸ばしてビールを飲んだ。荒い息を吐きながらしばらく沈黙する。
「愛憎は表裏一体。恋しさ余って憎さ百倍とはよく言ったもんだ。男女関係の結末は、この一句で尽くされとるね。
みんなが知ってる。みんなが疑ってるんだよ。世間の人は、そう思うのが面白そうなのでそう思う。大枠はありきたりで詳細は勝手に想像していい。彼らが安心してのびのびと楽しめるスキャンダルだ。今回は何せ殺人事件だ。町中のみんなが探偵になっているぞ。だが、犯人当てはとても簡単だって。ははは。そりゃしょうがないやねえ。君が一番疑われているわけは、山岸涼子を一番深く愛し、一番よく知っていたからだ。いやもう、堂々たるものだ。山岸涼子を論じるのに相手としては最もふさわしいやね」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦