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帰郷

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 篤信が手紙を広げると、一枚の写真が入っていた。 
「悠里はあれから、アメリカのお父さんに電話をして、拙いながらもしっかり話できてました。少しずつ英語コンプレックスが解けてきたようで、それからすぐにアメリカ人のクラスメート(こないだ西守医院に来た子ね)にも電話して英語で何やら話していました。三学期に入ってその子の話題が悠里の口から出ている位だから、学校は徐々に上手く行ってると思います。ちなみに今現在悠里は前の公園で素振りしてます。先週あった市の大会でなんと優勝しました!遠慮がちなお母さんを連れてこそっと見に行ったのに悠里の方が気づいてて、嬉しいやら恥ずかしいやらで……。同封してるのがその時の写真です」
 篤信は一緒に包まれた写真を見た。賞状を両手で胸の前に持ち満面の笑顔を見せる悠里と遠慮しているのか、彼女の母が少し離れて写真に入っている。久し振りに見る朱音たちの母、苦労が多かったのか最後に会った時より大分老けたような感じは否定できない。朱音が映っていないので撮影者は多分彼女だろう、この一枚を撮影するのにそれぞれにどれだけの努力があったのだろうと篤信は想像すると、言葉も出ずに時間が過ぎていった。

 それから篤信は次の包みを明けた。この写真は見覚えがある。なぜなら自分が撮った写真だからだ。 
「次に、陽人なんだけど、年明けの進路相談で進学したいと先生に言ったようです。実力は大丈夫?(篤兄ちゃん基準じゃないよ)と思うから、あまり思い詰めないでしっかり勉強して欲しいと思ってます。本人もやる気の無さそうな事を言ってるケド、それが陽人の調子のいい時なので期待が持てそうです。音楽の方もギミックの元メンバーが以前から目を付けていた人と交渉中だそうで、決定はしてないけど近々陽人はギターとボーカルとして新しいバンドとして活動を始めるんだと本人が言ってました。最近はママ先生のところに行ってはピアノで原曲を作っているとか。だけどアイツは相変わらず頑張ってません、それも陽人らしいか……」
 同封の写真は去年の暮れにギミックの解散ライブで陽人に頼まれて撮った三人の写真だ。自分が吹っ切れるきっかけを作った三人の元気な高校生三人組だ――。思えば篤信の部屋にあるステレオはギミックが出した最初で最後のCDが入りっぱなしだ。

「そして私、倉泉朱音は――、今日初めて自分の翻訳した書類が刷られる事になりました!日頃ダメ出しばっかする会社の上司も今回は満点のようで、基本がやっと出来たって言われて今は正直嬉しいです♪(マニュアルほぼ全文覚えたんだよ)。だけどね、これで調子に乗らずにもっと満足できるものを作って行こうと思ってます。
 私からは、最近撮った写真の中で自分的に一番のお気に入りを同封します」
 篤信は写真に目を通した。使い捨てカメラで撮ったであろう朱音たち3きょうだいの写真、うまい具合に三人が写真に収まっている。先日の東京から神戸に帰る途中で撮影したものだろう、あの時と衣装が同じだ。
 シャッターを押したのは写真右端の陽人だ、左腕を伸ばして自分達にカメラを向けて撮ったのだろう、口を真一文字にして得意気な顔をしている。
 真ん中にいるのが悠里だ。兄の陽人に右肩をつかまれて、ニッコリと微笑んでいる。彼女が大切にしている、年の離れた姉と兄に挟まれてとても嬉しそうだ。写真は深夜に撮られたものだろうか、少し眠そうな顔をしている。
 左端にいるのが、この手紙の送り主だ。倉泉朱音、篤信が音々ちゃんと呼ぶ彼女は物心ついた頃からそばにいる幼馴染み、そして彼の一番大切な人だ――、その時からずっと、今も、そしてこれからも。妹の悠里と腕を組んで、二人を見守るようにはにかんだ笑顔をしている。
 三人とも純系の日本人と比べて白い肌、濃い茶色の髪、この写真では三人とも近眼なので眼鏡を掛けている。年齢幅は大きいが、篤信以外の人が見てもこの三人がきょうだいであることが分かる。
 手紙には続きがある。
「この写真を見ると私たちはやっと一つに収まったような気がします、辛かったあの時期が洗われるくらいに。変だよね?きょうだいの写真がお気に入りって……。
 とにかく、三枚の写真はこないだの感謝をそれぞれが表現したものです。これで少しでも元気になって欲しいと切に願っています。
 無理しないでたまには帰ってきてね。陽人も悠里も待ってます。 かしこ」
作品名:帰郷 作家名:八馬八朔