帰郷
手紙を読み終えた篤信は、大きく息を吐いて天井を見上げた。それから部屋を一周見回すと、先日朱音たちがこの下宿にやって来た時の残像が甦り、それぞれが笑顔を浮かべては消えた。篤信は手紙と写真を分けて机の上に置き、それから三枚の写真を並べて手に取った。
「みんな、いい顔してるよな」
家庭の状況は決して良いとは言えない中で、彼女たちはそれでも逞しく成長している。
三枚の写真を額の縁に差そうとしたところ、写真たちはそれを嫌って、額の縁からヒラヒラと舞い、机の上に裏向きになって手紙の上に着地した。
「おや……」
篤信は写真を拾い上げた時に気付いた。三枚の写真の裏に何か書いてある。
次は篤信兄ちゃんの番だからね 倉泉悠里
悠里と彼女の母の写真の裏に書かれてある。左利き特有の文字の書き方だ、真っ直ぐ書いたつもりだろうけど、字が微妙に右に下ががっている。一回りも年下の女の子に勝負を求められてしまった、市内大会優勝という実績を提げて。
Whether you do anything or not, time just flows. H.Kuraizumi
ギミックの写真の裏には、生まれて最初に覚えた言語が英語である陽人の一言、彼が書いた歌詞の一フレーズがあった。サインの書き方が日本人離れしている。日頃陽人が言う風に捉えて見ると「モタモタしてたら老いぼれるぜ」といったところか。キツいようで優しい言葉だ。
What I got with effort by myself must be more precious than
what I was born with. Akane
最後に3きょうだいの写真。篤信は朱音が書いた文章をもう一度読んで写真を裏返した
「生まれながらにあるものより、努力で勝ち得 たもの方が大切な筈よ 朱音」
篤信は朱音の言葉をこう解釈した。しかし映っているのは三人の写真だ、きょうだいというものは「与えられたもの」であって「勝ち得たもの」の筈ではない。
「どういうことだろう?」
手紙の文章を最初から読み直した。倉泉家の3きょうだいの近況報告、内容はどれも自ら行動を起こして何らかを勝ち得たものだ。
努力で勝ち得たもの――。
写真に映っているのはやっぱり朱音と陽人と悠里の三人だ。枠いっぱいに入っていて、外に説明のしようがない。ということはこれも実は努力で勝ち得たものだということを意味しているのではないだろうか。そう考えると、写真に映っている三人の顔がますます凛として見えてきた。
「そうだった。みんな努力でここまで乗り越えて来たんだよな……」
自分はこの三人に守られている。そう思うと篤信の顔自然にに力が入っていった――。
そして今度は落ちないように三枚の写真をクリップボードに並べてとめた。それぞれが自筆で伝えてくれたメッセージとともに。
「努力で勝ち得る……、
モタモタしてらんない……、
次は僕の番……、
そうか!そういうことなのか」
篤信は朱音たちのメッセージを口にすると、その言葉が不思議に一本の糸のように繋がった。
自分の事は大切だが、それ以上に大切な事がある。そうすることで大切な人に大きな安心を与えることができ、そして自分も救われる。それは今、それもすぐに自らの手で成さなければならないと言う声が篤信の脳に直接聞こえてきた。
篤信はすぐ横に置いてある受話器をとって新たに聞いた電話番号を叩いた――。
「みんな、いい顔してるよな」
家庭の状況は決して良いとは言えない中で、彼女たちはそれでも逞しく成長している。
三枚の写真を額の縁に差そうとしたところ、写真たちはそれを嫌って、額の縁からヒラヒラと舞い、机の上に裏向きになって手紙の上に着地した。
「おや……」
篤信は写真を拾い上げた時に気付いた。三枚の写真の裏に何か書いてある。
次は篤信兄ちゃんの番だからね 倉泉悠里
悠里と彼女の母の写真の裏に書かれてある。左利き特有の文字の書き方だ、真っ直ぐ書いたつもりだろうけど、字が微妙に右に下ががっている。一回りも年下の女の子に勝負を求められてしまった、市内大会優勝という実績を提げて。
Whether you do anything or not, time just flows. H.Kuraizumi
ギミックの写真の裏には、生まれて最初に覚えた言語が英語である陽人の一言、彼が書いた歌詞の一フレーズがあった。サインの書き方が日本人離れしている。日頃陽人が言う風に捉えて見ると「モタモタしてたら老いぼれるぜ」といったところか。キツいようで優しい言葉だ。
What I got with effort by myself must be more precious than
what I was born with. Akane
最後に3きょうだいの写真。篤信は朱音が書いた文章をもう一度読んで写真を裏返した
「生まれながらにあるものより、努力で勝ち得 たもの方が大切な筈よ 朱音」
篤信は朱音の言葉をこう解釈した。しかし映っているのは三人の写真だ、きょうだいというものは「与えられたもの」であって「勝ち得たもの」の筈ではない。
「どういうことだろう?」
手紙の文章を最初から読み直した。倉泉家の3きょうだいの近況報告、内容はどれも自ら行動を起こして何らかを勝ち得たものだ。
努力で勝ち得たもの――。
写真に映っているのはやっぱり朱音と陽人と悠里の三人だ。枠いっぱいに入っていて、外に説明のしようがない。ということはこれも実は努力で勝ち得たものだということを意味しているのではないだろうか。そう考えると、写真に映っている三人の顔がますます凛として見えてきた。
「そうだった。みんな努力でここまで乗り越えて来たんだよな……」
自分はこの三人に守られている。そう思うと篤信の顔自然にに力が入っていった――。
そして今度は落ちないように三枚の写真をクリップボードに並べてとめた。それぞれが自筆で伝えてくれたメッセージとともに。
「努力で勝ち得る……、
モタモタしてらんない……、
次は僕の番……、
そうか!そういうことなのか」
篤信は朱音たちのメッセージを口にすると、その言葉が不思議に一本の糸のように繋がった。
自分の事は大切だが、それ以上に大切な事がある。そうすることで大切な人に大きな安心を与えることができ、そして自分も救われる。それは今、それもすぐに自らの手で成さなければならないと言う声が篤信の脳に直接聞こえてきた。
篤信はすぐ横に置いてある受話器をとって新たに聞いた電話番号を叩いた――。