帰郷
「これからも宜しくね、陽人、悠里」朱音は左の掌を上に向けた。
「いつまで続くかわからないけどね――」
陽人は朱音の手を取った。
「私はお姉ちゃんたちの妹で本当に良かった」
最後に悠里の小さな手が年の離れた姉と兄の手を挟む。三人の手が重なるとすぐに離れた。運転中の朱音は手が重なって離れるのを見ることはなかったが、気持ちは十分に伝わってきた。陽人も悠里も同じ気持ちである筈だ――。照れていた朱音の顔が自然な笑顔に変わっていった。
「あの時一つだけ思ったことなんだけど……」
陽人と悠里は運転を続ける姉に注目し、次の言葉を待った。
「『眼鏡忘れた』はないでしょ、悠里ちゃん。騙された私が言うんも何やけど」
「でしょ、俺もそれ言ったんよ」
姉のダメ出しに兄も相乗りしては二人で笑い出した。
「ひどーい。悠里的にはアリと思ったのにぃ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもキライ!」
車内に大笑いが響く――。三人でこうして大笑いしたのはいつ振りだろうか、そんな事もどうでも構わないほど三人は笑った――。
倉泉家の3きょうだい。会社で翻訳の仕事をする長女の朱音は22歳、高校生二年生の長男の陽人は16歳、そして小学六年生の次女の悠里は11歳。アメリカ人の祖母を持つ、年の離れたきょうだいは生まれた国も育った場所も覚えた言葉も三者三様であるが、三人揃って一般の日本人よりはやや白い肌、薄い色の髪と目。三人揃って近眼なのが、どこにいても三人はきょうだいであることを証明している。
両親の不仲から家庭内の一人一人にも溝と壁ができ、やがてバラバラになり、干渉もなく育ってきたが、寄しくも両親の離婚により三人はお互いに歩み寄った。
三人が乗った車は夜道を走る。三人の住む神戸に向かって高速道路を西へ、西へ。三人は長く細くそして暗い、今にも崩れそうな別々のトンネルを通り切り、やっと一つになり、しっかりとした道に繋がった、もう大丈夫だ、三人はそう思った――。
帰郷 おわり
「いつまで続くかわからないけどね――」
陽人は朱音の手を取った。
「私はお姉ちゃんたちの妹で本当に良かった」
最後に悠里の小さな手が年の離れた姉と兄の手を挟む。三人の手が重なるとすぐに離れた。運転中の朱音は手が重なって離れるのを見ることはなかったが、気持ちは十分に伝わってきた。陽人も悠里も同じ気持ちである筈だ――。照れていた朱音の顔が自然な笑顔に変わっていった。
「あの時一つだけ思ったことなんだけど……」
陽人と悠里は運転を続ける姉に注目し、次の言葉を待った。
「『眼鏡忘れた』はないでしょ、悠里ちゃん。騙された私が言うんも何やけど」
「でしょ、俺もそれ言ったんよ」
姉のダメ出しに兄も相乗りしては二人で笑い出した。
「ひどーい。悠里的にはアリと思ったのにぃ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもキライ!」
車内に大笑いが響く――。三人でこうして大笑いしたのはいつ振りだろうか、そんな事もどうでも構わないほど三人は笑った――。
倉泉家の3きょうだい。会社で翻訳の仕事をする長女の朱音は22歳、高校生二年生の長男の陽人は16歳、そして小学六年生の次女の悠里は11歳。アメリカ人の祖母を持つ、年の離れたきょうだいは生まれた国も育った場所も覚えた言葉も三者三様であるが、三人揃って一般の日本人よりはやや白い肌、薄い色の髪と目。三人揃って近眼なのが、どこにいても三人はきょうだいであることを証明している。
両親の不仲から家庭内の一人一人にも溝と壁ができ、やがてバラバラになり、干渉もなく育ってきたが、寄しくも両親の離婚により三人はお互いに歩み寄った。
三人が乗った車は夜道を走る。三人の住む神戸に向かって高速道路を西へ、西へ。三人は長く細くそして暗い、今にも崩れそうな別々のトンネルを通り切り、やっと一つになり、しっかりとした道に繋がった、もう大丈夫だ、三人はそう思った――。
帰郷 おわり