帰郷
6 思いは一つに
陽人たちが帰ってきたのは篤信が連絡を受けてから一時間後のことだった。朱音が計算をしてわざと集合時間を遅らせたのだが意外と時間通りになってしまい、朱音と篤信は仮眠や帰り支度などで案外忙しいスケジュールをこなすこととなった。
途中で合流した四人は、近くのファミレスで小さな送別会をし、道中も長いので篤信は女性たちに行き付けの銭湯を紹介すると、二人は喜んで 着替えを持って煙突の方へ消えていった。
残された篤信と陽人は下宿で帰る用意をしながら今日の出来事を報告し合っていた。
「陽人君、今日はどこ行ってたの?」
「大学。杏奈先輩に会いに行ってたんだ」
「杏奈?ああ、鞍掛さんね、モデルの」
杏奈はママ先生の門下生で朱音とも親友であることから、篤信は当然知っており、同郷のよしみでたまに連絡がある。といっても自分がテレビなどに出る旨のそれが多いのだが――。
「テレビとかじゃ見つけるの難しいけど、東京では一応ラジオのレギュラー持ってるの知っとう?」
篤信は、地元の同窓生が上京してそれなりに活躍しててる事を陽人に教えた。
「『CNN』のことでしょ?」
「知ってたんだ」
篤信は少し驚いた表情を見せた。
「実はね、今日はその収録に行ってたんだ」
「ホンマに?凄いやんか」
篤信が言うには、深夜枠の放送ではあるが、首都圏の学生の間では結構有名で、あまりラジオを聞かない篤信でも時間が合えば毎週聞いているくらいだと言う。
「知らなかった――」
陽人は少し後悔する。学生が企画製作、運営するローカル番組と聞いて調子にのって適当な事を言い過ぎたと思ったからだ。
「そういや放送って今日だよね?」
陽人は頷きながら、午前中に朱音が乗っ取ったベッドに座り部屋を見回した。出かけた時より部屋が片付いている。
「んで篤兄とお姉は何してたん?」
「部屋片付けたり、買い物に近く出掛けたり。朱音ちゃんはまた仮眠取るし……、とりわけ変化のある話って、ないなぁ」
「なーんや。せっかく悠里まで連れ出したのに……」
「何を期待してたの?」
「いえいえ、何でもありません」
それでも日常的に業務を進められる二人の関係というのも凄いもんだな、と陽人は思う。そう考えると陽人は安堵の表情を見せ、篤信に笑いかけたと同時に昨日の車中での夜更かしと今日の慣れない街の行脚が、睡魔というものになって現れた。
「お姉たち、長いよ。女二人で風呂入ったら何であんな長いんやろ……」
陽人はベッドで横になった。
「あの二人も仲いいんだね?よく銭湯に行くんだ」
長くなるのは姉妹の仲がいいからだと篤信は思った。
「ウチの風呂が狭いからたまに二人で行ってる。お姉と悠里は姉妹というより親子やね、11歳も離れてるし、実際悠里の教育係やったし」
陽人は大あくびをしながら、姉と妹についての間柄を解説するのだが、段々言葉が変になり自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。
「陽人君――?」
篤信が声を掛けた時には陽人はもう眠っていた。
「疲れてたんだね……」
篤信は横になっている陽人にそっと毛布を掛けて、ゆっくりと眼鏡を取ってやった。陽人は寝ながら安心した笑みを浮かべている。その顔は今朝同じ場所で見た朱音のそれとそっくりだった――。