帰郷
4 長姉
「音々ちゃん、起きた?」
朱音が起きたのは正午を少し越えたくらいの時間だ。篤信は台所で簡単な昼食を用意している。
まだ少し眠い目を擦りながら部屋を見回す。どこかで見たシチュエーションだ……。
「運転お疲れさん。何か飲む?お茶?コーヒー?」
「え、ああ、アリガト。じゃあコーヒーを……」
朱音は体を起こすが、まだ寒いのか布団をかぶってベッドに座ったままでまだボーッとしている。布団は朱音には慣れない、男の匂いがする。
それから朱音は定まらない視点で無意識に眼鏡を探し、周囲の視界を取り戻した。
「まだ昼時やんか」時計を見た朱音はそう言いながら自分の睡眠時間を算出した。
「どうぞー」
座卓にマグカップが置かれた。篤信はその横で立ったまま朱音を見ている。
「ごめんね」
朱音はお礼を言って、カップに手を伸ばす。
「あ、そうだ。陽人たちは?」
「ちょっと前に出掛けたよ」
そう言えば陽人は東京にいる先輩の所に行くとか昨夜の車の中で言ってた事を思い出した。
「――そう。悠里も?」
「うん。退屈そうだったから陽人君が連れてったよ」
「いつ頃帰って来るんだろ?」
「暗くなるって言ってたけど、用事が済んだらここに電話するよう言っといた」部屋の隅に置いている、上京してからの篤信と朱音とを繋げてきた大事な機械を指差す。
「大丈夫かな?陽人はかなりの方向音痴やからなぁ……」
「初めてじゃないらしいから大丈夫って言ってたけどね。それより音々ちゃん、疲れてないかい?昨日から運転しっぱなしやったけど……」
「大丈夫。バイクで来るより楽だったかも?みんないたし」
朱音は出されたマグカップに手を伸ばした。あまり飲み慣れていないコーヒー、入れてくれたことで満足な気持ちになり、飲むほどに気分が落ち着いていくのが分かった。
「それより篤兄ちゃんも寝てないやんか?」
夜通し運転した朱音が言うから間違いない。篤信も道中朱音が寝ないように、話を聞いてあげたり昔話などをして朱音を見守っていたのだ。
「僕は、徹夜に慣れとうから。帰りはないわけだから」
「ありがと。お陰で無事に来れたわ」
「ゆっくりしてなよ。何か食べる?もうお昼時だけど」
「うん――」朱音はもう一度カップに口を付ける「あのね」
朱音は篤信を見上げると、その視線を感じて座卓を挟んで目線の高さを合わせた。何か言いたそうな目だ。
「篤兄ちゃんには知ってて欲しい事があるの」
朱音は心配させまいと笑顔を作るが、篤信は少し心配そうに朱音を見る。
「あ、構えないでよ。大した事でもないから。篤兄ちゃんが大事な告白をしたから、私もね――」
「いいよ。僕が聞いてあげられる事なら」
篤信は泳いでいる朱音の目を見た。