帰郷
昨日のそういった経緯があり、篤信は荷物をまとめ今夜東京の下宿に向けて出発する、幼馴染みの朱音の運転で自動車で東京まで。朱音は言い出したら聞かないのを知っているので篤信は彼女の提案を受け入れた。行きは良いけど帰りの事を篤信は心配したが、朱音は、
「陽人たちも連れて行くわ。三人で送れば篤兄ちゃんも心配ないでしょ」
と答え、結局きょうだい三人で篤信を東京まで送る段となった。
「帰りは三人で帰るから心配しないで、私ロングドライブは嫌いじゃないから――」
朱音が篤信に何かしてあげたいという気持ちが篤信に伝わる。それだけでも篤信は満足していた。
出発は今夜。夜に出て翌朝に東京に着く予定だ。年末の帰省ラッシュも始まる折、渋滞を避けるため深夜の上京を選択した。今日は夕方から朱音は妹の悠里を連れて西守医院に来ており、暫しの別れの前に先生を含めて食卓を囲んだ。
「朱音ちゃん、本当に大丈夫?」
心配するのは西守先生だ。自分の息子が東京に帰る事より、朱音の体調を気に掛ける。
「ええ、帰りも三人なんで大丈夫ですよ。運転変わる人はいないけど。ありがとうございます」
自動車を提供してくれた先生にお礼を言った。先生は娘のように朱音と接する。篤信と違って照れる事なく朱音の事が好きだと日頃言っては周囲の反応を見て楽しんでいる。
「それより陽ちゃん、まだ来ないね」
先生はお茶をすすりながら、まだここに来ていない陽人の心配をする。
「9時までには来るって言ってたよ」
カウンターの向こうにいる悠里が質問に答えた。悠里はママ先生と一緒に後片付けをしながら、今日の夜食を作っている。
「陽人の9時は9時半やからねぇ……」
と朱音が言うとみんなが笑う。陽人は時間にルーズだ。
時計を見るとほぼ9時のところを差していた。
「そろそろ行く用意しなくっちゃ」
篤信はそう言いながら朱音の顔をチラッとみ見たあと、席を立って自分の部屋に戻って行った。
「じゃあ、私も……」
朱音も篤信の後を追うように席を立った。