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帰郷

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7 線香花火



 地元の高校生バンド、ギミックは明日、最後のライブを行うため近くの小スタジオで調整を行っている。
 陽人はギミックの解散を決めたのは昨日のことだ。ベースの郁哉が大学受験のためにバンドを抜けることを発端にギターの基彦も活動を無期限休止を提案した。今までバンドの舵を取ってきた陽人は最初は乗り気ではなかったが、同意することにした。

「あのさ、みんな」
 曲の合間に陽人が二人に声をかける。ギミックのこれからについて最終的な決断を陽人は今まで伸ばし伸ばしにしてきたが腹を決めた。
   後の事は考えないで
   思い切って出来ることをする   
陽人は妹の言葉を思い出した「どうにでもなれ」ではなく、「何とかなる」そう思えるようになっただけ自分も進歩した。
「いろいろ考えたんだけど、解散しよう。明日は悔いの残らないように気持ちよくやりたい」
「いいのか?」基彦と郁哉が同時に答える。
「いいって何も、みんなバラバラじゃバンドにもならんやんか。それに、郁さんも大切な時期やし、宮浦にしても俺の優柔不断で振り回したくないからさ……」
 元気なく陽人が答える。自分の中でもスッキリしないのがわかる。高校に入学した頃のギミックを結成するまでの間、一人で曲を書きためていた時期に戻るのが今の自分には不本意だ。当時の家庭の事情とがダブって鬱屈した自分が再び甦るのが陽人には耐えられない。そうならないためにもやっぱり一つのバンドとして活動したい。基彦も郁哉も自分本位な事を言っているように聞こえるが、陽人自身も人の事を言えるような状況では絶対になかった。
 再び思い通りに行かない状況に戻ることと、目の前の仲間を思い通りにさせない事とを比べれば、陽人の選択に迷いはなかった。そして三人が納得する形で完結もできる。ただ、自分が自分を受け容れてないだけだ。
「何とかするよ、っていうか何とかなるって」
 陽人が家庭の事情からひどく塞ぎこんでいた時期を目の当たりにしてきた基彦と郁哉は陽人の行間が読める。
「――それと、だ。二人とも気ぃ使わないでよ」
 二人が何か言いかけようとしたところを陽人が釘を刺した。
「ごめんな、俺帰るわ――」陽人はチラッと時計を見た。
「倉泉、怒ってんのか?」
「違うよ、今日はメシ番なんだ」
きょうだいで交代で家事をしているのは基彦たちも知っている。
「毎回妹に押し付けるのも申し訳ないからさ……。明日よ、楽しくやろうな」
元気よく陽人は出て行ったが残された二人はそれがカラ元気なのが痛いほどわかる。
「宮浦、本当のことを言ってやれば?倉泉も元気出ると思うねんけどなぁ」
「んー、でもさ倉泉は認めたくないんだろうよ」
「だよなぁ」
「倉泉なら一人でも十分できるのに、なんでバンドにこだわるんだろう」
陽人なりに考えた上での事はよく分かる。二人は帰って行く陽人を止めることはなかった。

 陽人は学校の帰り道にスーパーで買い物をして帰る。慣れない内は主婦層メインの中で自分の存在が浮いて見え、バイトの同級生にからかわれることもあったが、陽人の表情を見てか、次第にそれも無くなって行き、陽人自身も野菜や肉の相場が分かるくらい買い物にも慣れてきた。
 レジ袋を提げ、店を出たところに「御自由にどうぞ」と書かれた線香花火がカゴにいくつか置いてあった。季節外れの忘れ物に見向く人もなくほとんどの人が通り過ぎる。陽人だけがたまたま足を止めたから気付いたようなものだ。
「誰がもらうんだろ、こんな季節外れなもの」
 陽人はそう言いながらも貰い手のいない線香花火を一握り分戴いて家路に向かう。辺りはもう暗くなって来た。
 元気よくスタジオを出て来たけど気分は晴れない。これ以上二人を留めておけない、そして自分自身の方向性はまだ見つかっていない。


作品名:帰郷 作家名:八馬八朔