帰郷
4 逃避行
篤信が帰ってきてからの朱音の日々のリズムは明らかに変化した。きょうだいの目に映る姉の姿は「浮き浮きしている」という印象が端的なところか――。普段は時に優しく、時にカリカリ、休みになれば車か単車に乗ってどこかへ行ってしまう……、そんな姉であるが、今朝も出かけに浮いた話をしていた。陽人と悠里は顔を見合わせて、同じタイミングで首を傾げた。
相変わらず仕事は波に乗りきれていないが、今日はそれも苦にならなかった。今日は幼なじみの篤信と食事に行く約束をしている。今までデートの類いはしたことがないだけに、気分は晴れていた。
仕事も早めに切り上げ、ロッカーに戻る。
「朱音ぇ、今日は急いでどこいくの?」同僚の智香が、慌てて帰り支度をする朱音を捕まえる。
「ちょっとね」
あまり構ってくれないで、とは言わないけど雰囲気でそう言う。それが逆に智香のツボにはまってしまった。
「今日も仕事もう一つやったのに、ヘコんでないわよねぇ、朱音」
智香は朱音の目線に顔を挟み込む。
「もしかしてデート?」
冗談のつもりで聞いたのだが、朱音はいつものように即答しない。近からず遠からずなのだ。
「まさか図星やった?」
「いや、そんなんと違うよ」完全否定しない。朱音にこのフリは慣れておらず、うまくかわしきれていない。
「ふーん、朱音もやるんだねぇ」
「だから違うんだってば、古い知り合いと会いに行くだけだよ」
「それって男の人でしょ?」
朱音はやっぱりかわしきれない。
「あー、もう。お願いやからイジらんとって、ホントに。ゴメンね」
朱音は逃げるように足早に会社をあとにした。