帰郷
「サーラー」
二人の会話が止まり、二人とも同じ方を向くとサラを呼びにきたクラスメートたちが三人、入り口の前に仁王立ちで立っていた。
「何話してたん?」
「ううん、何も」サラの言葉が日本語に戻る。
「聞いてやんなくていいよ、どうせ嘘なんだから。」
「そうそう」
「あんなの放っといて帰りましょ」
三人は教室に入るや悠里の前を通り過ぎ、矢継ぎ早にサラに声を掛け、一緒に下校するよう促した。
悠里に背を向けるサラと三人。悠里は話を続ける事を諦めた。4対1ではとてもまともに進まない。
「サラ……」
悠里の無力な呟きが聞こえたのか、サラだけが後ろを振り返った。
「本当は私もあなたと話がしたいんだよ。でも、そんなことしたら私もターゲットにされてしまう……」
サラは去り際に英語で悠里にそう言うと、三人に連れて行かれるように、悠里一人を残して教室の外へ出て行った。
「はぁ――、結局ダメだった」
見えなくなったのを確認して一息。それでも悠里は嬉しかった。自分から言えた。結果は抜きにして話し掛ける事ができた、そして伝えたい事は伝わったという確信があった。今まで躊躇してた事ができた悠里は塞ぎこみかけた自分に小さな光が見えた。
「言えた――。言えたよ」
悠里は両手を胸に当て、サラがさっき言った言葉を繰り返して呟いた。彼女も辛い思いをしている。サラは今、グループの中にはいるけど、それが本意でない事を誰かに言いたかったのだ。だから去り際に二人にしか分からない言葉でメッセージを残したのだ。
今すぐではなくても、サラとは仲良く出来る、悠里はそう信じられるようになり、それは顔になって現れた。