帰郷
3 放課後
年内の授業もあと一日。教室の大掃除をすればあとは終業式で冬休みだ。
子供たちは近日中にやって来る大イベントを前にあれやこれやと皮算用をしたり、鬼を笑わせたりしている。小学生は無邪気なもので、すでに楽しい解放感が学校を取り巻いていた。
六年生の悠里は、そんな中でも相変わらず表情を変えない。変えると何か揶揄されるからだ。自分じゃない自分が学校にいる、そんな生活が続いておよそ3ヶ月、悠里は不本意ながらもそんな毎日を受け入れざるを得ない状況下にいた。
しかし、悠里は先日姉の朱音に相談したことで大きな後ろ楯に恩恵を感じている。気分は楽になり、学校での圧倒的苦境でも絶望感はない。そして学校で自分がすべき事が見えてきた。そういえば、気にならないだけかも知れないけれど、ここ2、3日誰に付けられることなく無事に下校できている。
「起立―、礼」
日番の号令とともに今日の日課が終わる。放課後になると元気になる者、特定のグループで集まる者、さっさと家に帰る者、机の傍で立っていた子供たちは一斉に散り散りばらばらになって行く。悠里はいつも真っ先に帰る事にしている。学校にいても話し相手もいないし、週二回の剣道の稽古やそれ以外の日は交代で家事もしているから学校でゆっくりもしてられない。クラスメートからは「いつも逃げるのか」と揶揄されているが、最初は正直に反論していたが、誰も聞いてくれないのでそれもいつしか言わなくなった。
今日も悠里は急いで校舎の階段を降り、校門に差し掛かる。
「あ、しまった――」
急ぐといつも良いことがない。悠里は教室に配布物を置き忘れた事に気づいて声を出した。悠里が忘れ物をするのはいつもの事で、自分でもうんざりするくらいだ。
「あー、もう。悠里のばか……」
下校する子供たちの波に逆らって悠里は小走りに学校へ戻り、教室にたどり着いた。静まり返った教室、悠里は中に入る前に戸の窓から中を覗いてみた。誰もいないと思っていたのだが、中にはサラが一人で下校の準備をしているのが見えた。
「サラ……」