帰郷
2 海外からの転入生
朱音は妹の悠里が学校で謂れのない揶揄をされている事を知った。朱音も悠里くらいの年の頃に、状況は少し違うが転校を契機にからかわれた経験があり、それが嫌な思い出であったことを記憶している。悠里は「自分で何とかする」とは言ったものの、どうするのかは判らないので朱音は悠里以上に気が気でなく、11歳という年齢差もあり、妹というよりも娘を見るような心境で心配していた。
悠里を揶揄する者の一人にサラという名の、朱音と似たような境遇を持つアメリカ人とのハーフの同級生であるが、朱音はひょんな事で出会うこととなった。
朱音は弟の陽人を連れて西守医院にいる。朱音にとって西守医院は物心つく前から親に預けられていた事もあり、もう一つの家族みたいなところだ。自分の家が崩壊していた時も、一人息子の篤信が東京の下宿にいる今もこうして度々訪ねている。
「実はね、悠里の事なんやけど」
「ん?悠里がどうかしたの?」
朱音と陽人は篤信の部屋で、ここにはいないもう一人のきょうだいのことを話題に出す。悠里は普段自分から話を持ち掛けないだけに、朱音には心配なようだ。現在神戸に帰省中の篤信も椅子に座って二人のやり取りを聞いている。
「そんなん、お姉の思い過ごしやって」
陽人は姉が大袈裟に言ってるのだと思い答える。
「あんたねぇ、妹がピンチなんよ」
「はーい……」
朱音に諭されて陽人はさっきの言葉を詫びる。陽人は妹の悠里とは同じ部屋で生活している。その点では朱音よりも悠里の様子が分かると思うのだが、学校でそんな事がある風には見えない。だからそんな言葉が出た。
「その話なんだけどね――」姉弟のやり取りを横で見ていた篤信が間に入る。
「僕も見たよ」
「え、そうなの?」
篤信は神戸に帰ってきたその日、悠里と出会う前に、下校中悠里の後ろを付け回す小学生の一団を見たことを説明した。内容は話すまでもなく、朱音は相槌を打った。
「じゃあホンマの事みたいやね」
「だからさっきから言っとうやんか」
朱音は陽人の腕を拳で突く。陽人は突かれた部位を押さえながら姉に謝った。
「そりゃちょっと問題やなぁ」
篤信が呟くと一同拳に顎を乗せて首を傾げた。明るく振る舞っている妹がイメージにあるだけに厄介に感じる。