帰郷
「お待たせ」
着替えを済ませて戻って来た朱音はテーブルの横にある椅子に座った。朱音は仕切り後の雰囲気をどう繕うか考えたけど、敢えて冷静に、冷静に振る舞うこととした。ただ、陽人たちには姉の様子がぎこちないのは見え見えだったが、敢えて気付いていないフリをする。
「久し振りだね」
篤信も朱音が帰ってくるや、急にキレが悪くなって、朱音と同じようにぎこちない。油の切れたおもちゃみたいだ。
「ホント、久し振り」朱音も硬い笑みを返す。
「悠里ちゃんたちから大体聞いたよ。今まで大変だったんだね」
「うん、まぁ――。先生から話は聞いてるかと思ってた。何か言いにくくってさ――」
篤信と朱音――。陽人と悠里から見れば、学年は二つ違いだが篤信は早生まれなので年は一つしか違わず、お互い接した時間も長いことから自分達より近い間柄であることはよく知っていたのだが、感動の再会という感じではないのが傍観者の立場から見れば明らかだった。
「何か気まずそうよね」
「ああ、何かあったんかな……」
陽人と悠里は耳元で会話をしながら姉の様子を窺っている。
「俺達外してようか?」
陽人は一度悠里と顔を合わしてから朱音に言ってみたが、その表情を見て自分の言動を後悔した。困惑の表情から助けを求めるかのような顔になったので二人はその場を立つことが出来なかった。
陽人たちは篤信が大学を卒業するまで神戸に戻らないとは聞いていないし、覚えていたとしても朱音のような驚き方はしない。普通なら親しい人との再会を喜ぶだろうと思うのだが二人のぎこちなさに何かあるのだろうと思った。
気まずい沈黙が部屋の空気を覆う、お茶をすする音が寂しく聞こえる。狭い空間が閉塞感を助長する。
「何か、狭くない?」
陽人が沈黙を破る。次の話題を姉に振ってみる。
「あ、そ、そうね。」朱音は弟の出したサーブを受けた。「ここじゃ何やから場所変えようか?」
「変えるってどこ行くの?」
一同沈黙、考え始める。
「久し振りに帰って来たから、山行って夜景でも見に行こうか、どうだい」
篤信が提案を出す。
「悠里行ってみたい」一番に食いついたのは無邪気な悠里だった。
「いいねぇ、でもどうやって行くの」
「僕が家から車とってくるよ」
「免許持ってんだ」
「ペーパーだけどね。東京でも運転することないけど」
「じゃあ早速行こうよ。ボロ家におっても前進まんし」
四人が同意を示すように頷いたと同時に、玄関前から痺れを切らしたドンの鳴き声が聞こえてきた。
「いっけね、また置きっ放しちゃったよ、ごめんよぉ」
篤信は三人に一旦別れを告げ、車を取りに自宅へ帰って行った――。