帰郷
7 幼馴染み
「あーあ、何か面白いことないかなぁ……」
朱音は仕事を終えて家路に向かう。仕事も順調とは言えず足取りが重い。駅から家までの上り坂が追い討ちをかける。辺りも暗くなってきた頃、やっとの帰宅。古い階段を上るとブーツの音が周囲に響く。その音を聞いてか、二階の柵に繋がれた柴犬のドンが家人の帰りを迎えた。
「今日も散歩に来てるの?良かったねぇ。でも今日は遅くないか?」
朱音は玄関前に繋がれたドンをあやす。妹の悠里が散歩に連れて来たのだろう、陽が落ち始めているのにまだ繋がれているのは悠里が忘れているのだと思い込み「また忘れたな」といいながら部屋の鍵を探していると、家の中から話し声が聞こえてきた。
「あれ、誰か来てるのかな?」
朱音は鍵穴に鍵を差した。玄関のドアノブが回る音がした。古い家なので、ガチャガチャとする音が安っぽい。
「お姉ちゃん帰ってきたよ」
鍵の回る音は家の中からも聞こえ、悠里は玄関に回った。
「ただいまー。悠里ぃ、ドンが繋がれっぱなしよ」
朱音はいそいそとブーツを脱ぎ始めた。下を見ると見慣れない靴がある。
「誰か来とう?」
「あのね、お姉ちゃん……」
悠里は背伸びして、朱音に耳打ちする
「えーっ」
朱音は驚いて思わず声を出した。
「冗談でしょ?」
「ホントだって、ほら」
悠里は朱音の手を引っ張った。
「ね、音々ちゃん」
「篤信くん?」
朱音は長らく聞いてなかったアダ名に一瞬戸惑った。篤信も心の準備が全くできておらず、ただオドオドしている。
「ウソ、いやホントだ。あれ、何言ってんだろ、私――」普段はしっかり者の姉である朱音なのに、ひどく落ち着きがない。
「ちょっ、ちょっと待って。とにかく着替えて来るわ。」
朱音はそう言いながらもう一つの方の部屋に入って行った。滅多に見ない姉の慌てっぷりに弟妹は口をポカンと開けて見ていた。
「やっぱ来ない方が良かったかな?」
「ううん、そんなことないと思うよ」
「裏表無いから、姉ちゃんは」
二人はさっきのリアクションをそのまま捉えていいよと篤信に目で差した。
「嫌だったら怒ってるよ、今頃――」
悠里は朱音が怒っている格好を真似して見せた。
篤信は悠里の真似に笑顔を見せるも不意の再会に鼓動が速まっていくのを感じた。