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帰郷

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 篤信と悠里は、お互いの親のきょうだいが夫婦関係にあり、血縁関係はないが、親戚同様の付き合いがある。さらに二人は誕生日が同じで、年もちょうど一回り違いなので干支も同じだ。
 最後に会ったのは五年前の春だから、悠里が小学校に上がる直前である。しかし、悠里は篤信のことをちゃんと覚えており、そして篤信の帰郷を喜んだ。一方の篤信は恐縮に思った。
「篤信兄ちゃんはいつ帰ってきたの?」
リードを手にする悠里が質問する。
「今日だよ。悠里ちゃんはドンも覚えてるんだ」
ドンは悠里にえらくなついている。
「たまにね、西守先生の所行った時に散歩連れてってあげてるの」
悠里は屈託のない笑顔を見せる。さっきまでの暗い表情が嘘のように。
 二人はそのまま歩き続ける。篤信は悠里が下校中であることは分かったが、記憶とは違う道を歩いていることに気付いた。
「学校ってこっちの方やった?」
悠里の表情が一瞬固まる
「最近ね、引っ越して転校したから――」
「そうやったんか、前の家見たら空き家になっててさ、ビックリしたよ」
篤信は一つ安心した。悠里とその家族には帰郷したら会いたかった人の一人だ。篤信の知る家は空き家になっていて、連絡も取れなかったからとても心配していた、とういより不安であった。目の前にいる小さな悠里を見てその不安は解けつつあった。しかし、悠里の言い方と出会う前に会った彼女のクラスメートが少し気になるところであるが。
「それで今はどこに?」
「もう見えてるよ、そこに――」
二人は公園に差し掛かったところで足を止め、視線を公園の先に向けた。
「あ、お兄ちゃん」
悠里は公園の横にある文化住宅の二階通路にいる制服姿の兄を見て、指を差して篤信に紹介する。悠里より先に帰宅したのか、家の前で退屈そうに手すりに肘を掛けて頬杖をついている。
「あ、いけない」
悠里は思わず声を出した。するとその声を聞いて、妹が帰ってきたことに気付き、遠くの目線が公園の方にいる悠里に向いた。
「あ、悠里」
帰宅してきた妹を見つけ、階段をかけ降りてきた。
「待ってたよ。家の鍵持ってってへん?中入れないよ」
「ゴメン、鍵置いてくの忘れちゃったぁ」
悠里は慌てながらポケットから鍵を出して兄に手渡した。
 篤信は兄妹のやり取りを見て戸惑った。二人が住んでた元の家とのギャップ、兄の見た目等々、全体的に篤信の想像の範疇を脱していたからだ。
「頼むで、ホントに……。あれ、どなた?」
悠里の横に立っている、長身の人物に自然と目が移る。
「陽人君、陽人君だよね?」
その声を聞いてすぐに誰か分かった。
「えっ、篤兄?」陽人は横にいる悠里が頷いているのが目に入ると、自然に顔が綻んで以前の面影が見えた。
「久し振りやん。いつ帰ってきたの?」
 篤信は自分よりも小さな兄妹に帰郷を歓迎された。二人はその経緯を知らないが、素直に喜んでくれたことに篤信は次第に顔が穏やかになっていった。


作品名:帰郷 作家名:八馬八朔