帰郷
「やれやれ……」
篤信は子供たちを追っ払うと、ドンがまた一声吠え、主人に散歩の続きを催促する。
「お前はマイペースだなぁ」
再び歩き始めたドンは嬉しそうだ。
小学生を散らしたドンは、今度はさっきまで前を歩いていた女の子の方を追い掛け、一目散に走り出した。
「おいおい――」篤信はドンを止めようとするが、リードは目一杯延びてゆく――。ドンは女の子に追い付き足元に顔を擦り付けると、その子はドンに気付いて歩いていた足を止め、後ろを振り向いた。
「あら、誰かなってドンじゃない」
女の子は一目で自分に寄ってきた犬がドンであると言った。どうやら知っているようだ。暗い表情が優しくなったのが見てわかる。
「どしたの、散歩?」しゃがみこんでドンをあやす。篤信より慣れているようで、さっき以上に元気よく尻尾を振り振りしている。
篤信はリードを戻しながら駆け寄った。女の子も散歩の主の気配を感じ、そのまま上を向いた。いつもと違う青年がドンを連れているので、戸惑った表情で篤信の顔を覗き込むように見ている。わからないのか視点はあっていない。
「あの――、どなた、ですか?」
篤信は怪訝そうに尋ねる視線を感じながら、自分の記憶を辿る。濃いめの茶色い髪、白い肌、よく見ればわかる欧米系の雰囲気……。篤信の持つ記憶と目の前の少女の人物像が一致した。
「もしかして、悠、里ちゃん?」
「えっ?」少女は名前を呼ばれ驚く。
「久しぶり、というよりも覚えてないかな、僕のことを」篤信は照れ臭そうに笑う。悠里も悠里で自分の記憶を辿りながら立ち上がり、手にしていた眼鏡をかけ直して篤信の顔を間近に見る。記憶と人物が一致したのか、悠里の視点が定まると、難しい顔が笑顔に変わった。
「篤信兄ちゃん!」
「大きくなったね」
篤信は硬い笑顔で頷くと、悠里は篤信に飛び付いた。