帰郷
篤信はドンに連れられ、坂を下り始めた。篤信の視線には下校で戯れる小学生と、その先には神戸港が見える。
我が道を駆けるドンの行く手を数人のランドセルが阻む、ドンが子供たちに吠え始めると、篤信は慌ててドンが吠えるのを止めようとした。
「こら、何で吠えるんだよ!」篤信はリードを巻いてドンの顎をさする。
「あ、ゴメンね。ビックリしたろ」
いきなり吠えられた子供たちに謝るが、子供たちは何も無かったようにすぐ後ろを向いて冷たい視点を遠くに向ける。
「何だ?何かあるの?」
篤信も釣られて視点を子供たちに合わせる、その先には淋しそうに一人歩く同じ小学校の女の子が見えた。
「みんな、何しとう?」
不思議そうに篤信が尋ねる。
「あの子――」目で相手を差す。「嘘つきなんよ」
英語訛りのある日本語で答えた。外国人かな。
「嘘つき?それはいきなりだなぁ」
篤信の中では、知らない人をいきなり悪く言うという思考はない。それだけに悪意のありそうな言葉に引っ掛かるものがあった。
「何かしたの?あの子が」
ちょっと意地悪な聞き方をすと、さっきとは別の子が答えた。詳しくは聞かなかったが、その内容は「嘘つき」とは全く関係ない単なる誹謗中傷であることがわかり、篤信は「もういいよ」とそれ以上の返答は遠慮した。
「それで君らはあの子のアラを探すのに後付けてんの?」篤信から溜め息がこぼれた。
「何があったかは知らないけど、よってたかってコソコソするのはフェアじゃないな。言いたいことがあれば面と向かって言えばいいじゃないか」
篤信が睨みを効かすと、子供たちはバツが悪そうな顔をして反対方向へ行ってしまった。