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帰郷

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 今日も後ろから人影を感じる。何やら言ってるのが聞こえるけど、聞きたくない。
「あいつの家ってな……」
「そうそう――」
聞いてないふりをするのが精一杯の抵抗。やっぱり聞こえてくる。でも振り返ったら思う壺だから、悠里は決して後ろを振り向かない、振り返ったら泣いてしまう……。
「どうしたらいいの――」
悠里は視線を上にした、眼鏡を外して両手に持つ、眼を大きく見開く、立ち止まる。後ろをつける者の足も止まる。
 途切れかけた気持ちをリセット。
「いや、何か方法は、あるよ。絶対に――」
 悠里は気持ちを切り替え再び考え出した。それでも悠里はサラを責めたりはしなかった。最初は仲良くできていたのだ、だからこうなってしまったのには原因がある。原因がある以上解決する方法はある。

   人を責めても何も解決はしない――。

 悠里が11年余りの半生で見てきた彼女なりの考え。本人には持論と言う認識はない。子を放置して身勝手に離婚をした両親だって責めたり恨んだりしたことは一度もない。人を責め立てて解決した問題などないことを家の中で嫌と言うほど見てきたからだ。ただ、相手を説得できるほど今の悠里は口が上手でない。そんな時はいつも気持ちを切り替えて何とか自分を保って来た。本人が望んだ訳ではないが、辛い経験を力に変えることを無意識に覚えた。それは同じ経験をした者しかわからない。
 悠里は前を向き直って再び歩き始めた。後ろから聞こえる話し声は聞こえなくなった――。



作品名:帰郷 作家名:八馬八朔